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小説「ユニット・クエスト」

1 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/11(火) 04:37:11 ID:2WnxhCes0
小説書きます。ファンタジーものです。
古いネタで恐縮ですが、タンポポ、プッチモニ、ミニモニ。が題材となります。
ストーリー的には、プッチモニ結成から後藤の卒業ぐらいまでをモチーフとしています。

ですので、5期以降はもちろん、上記ユニット以外のメンバーも
登場しませんので、その辺りはご了承ください。

2 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/11(火) 04:39:36 ID:2WnxhCes0
 ── プロローグ ──

3 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/11(火) 04:41:15 ID:2WnxhCes0
冬が近づきつつある日の夜、鉱山町の一軒の酒場の扉が、ゆっくりと開いた。

客の中に気づいた者は、誰ひとりいなかった。
唯一、この小さな店をひとりで仕切る女将が
カウンター席で下品な冗談を飛ばす酔いどれを
軽くいなしながら、気配を感じ目をやった。

扉の影から現れたのは、鉱山で働く荒くれ者が集う
この店の雰囲気にそぐわない、小さな女の子だった。

その娘は、全身を扉に預け、懸命に押し開けようとしていた。
そして自身が通れる隙間を作ると、するりと体を滑り込ませた。

(親父さんでも探しに来たのかねぇ)

同じ年頃の子供を持つ女将は、目を細めた。

だがその娘は、ちょこまかと走ってカウンター席へと飛び乗り、こう言った。

「おばさん、ウォッカ! ウォッカおくれ」

4 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/11(火) 04:42:31 ID:2WnxhCes0
「あ、あんた、ウォッカって…」呆れるように女将は言った。

娘の隣に座る客の1人が、彼女の存在に始めて気づいた。
「なんだ、なんだ。こりゃまた、可愛らしいお客さんだな」

娘は露骨に嫌な顔をした。
「うっさい! リーマンふぜぇが黙ってろよ!」

客の男は一瞬たじろいたが、頬を緩ませ大きな体を揺らせながら豪快に笑った。
「ハッハッ! 鉱山男に向かってリーマンか。こりゃいいや」

むっとする娘に、女将がたしなめるように声をかけた。

「どうしたの、こんなところにひとりで。お父さんやお母さんは?」
「いいからウォッカ出してくれよ。オイラ、寒くてしょうがないんだから」

すると、隣の男が意地悪く笑って茶々を入れる。

「ダメダメ。お子様は家に帰ってミルクでも飲んでな」
「なんだとぉ! てめぇ死にてぇのか!!」

娘はカウンターを両手で力いっぱい叩いた。バンと大きな音が鳴った。

5 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/11(火) 04:43:51 ID:2WnxhCes0
客の視線が一斉に集まった。が、その視線は扉が開くと共に、入り口へと移った。

「なになに、騒がしい店だね」

そこに立っていたのは、女の剣士だった。
「着く早々、揉め事? ホントやめてよね」
そう言いながら、剣士は娘に近づいた。

娘は女将と客の男を指差した。
「だってさ、コイツらがオイラのことガキ扱いするんだもん」

「しょうがないよ。だってヤグチ、子供だもん」
剣士の後ろから、黒いマントを羽織った女が現れ言った。

「はぁ? テメェ喧嘩うってんのかよ!」

ヤグチと呼ばれたその娘は声を荒げた。剣士が隣に座って軽く肩を抱く。

「そうカリカリしなさんなって。それと直した方がいいよ、その口の悪さ。
 おばさん、なんか体のあったまるモンちょうだい」

黒マントの女も剣士の隣に並んで腰掛ける。

「カオリも。もう、外は寒くって寒くって。あっ、このコにはミルク出したげて」
「オイラはウォッカだって!」

ヤグチは再度、カウンターを叩いた。

6 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/11(火) 04:45:11 ID:2WnxhCes0
奇妙な三人組は、他の客の目を引いた。組み合わせの妙もだが
それよりも、その容姿が男たちの視線を釘付けにした。

カオリと名乗った黒マントの女は、そのマントを脱いだその下も
黒一色のワンピースだった。
おまけに長い髪も真っ黒で、正面からだと闇に顔だけが浮かんでいるように見えた。
しかも、面差しが神秘的で、大きな瞳に見つめられ「ねえ笑って」などと言われたら
ヘラヘラとにやけたツラをしながら、その闇に吸い込まれてしまいそうだ。

一方、剣士のほうは男どもを寄せ付けない何かを持っていた。
それは腰に下げた大振りの剣のせいかもしれないし
意思の強そうな瞳のせいなのかもしれない。
が、時折見せる表情が妖艶で、男たちの心は、潮の満ち引きのように
引き付けられたり、おののき離れたりしていた。
三人のやり取りから、名前をアヤというらしい。

そしてヤグチはというと…さすがに酒場に集う男たちからは関心の外にあった。
小さな体もそうだが、乱暴な口調や艶のない仕草は
まだまだ大人の女というには、ほど遠い。
狩人を気取っているのか、背中に背負った玩具のような小さな弓も
いっそう子供じみて見えた。

7 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/11(火) 05:30:35 ID:2WnxhCes0
「あんたたち、旅の人?」

女将が尋ねた。カオリはスープの満たされた器を両手で抱え、暖をとりながら答えた。

「まあ、そんな感じ。ところで、この辺に泊まれるトコってある?」
「さあね、ここは鉱山町だし。旅人なんてめったに来ないから宿屋もないしね」

途方にくれるようにひとつため息をつくと、カオリはアヤに顔を向けた。

「そうなんだ。どうするアヤ?」
「うーん…この寒空に野宿はキツイしなあ」

「野宿だなんて、あんた…」
女将がそう言いかけた時、遠吠えのようなものが聞こえてきた。
「ほら、聞いてごらん」
女将は視線を右上に巡らし、人差し指を立てた。

また聞こえた。それは、人の悲鳴のようでもあり、獣の咆哮のようでもあった。
そう遠くではないようだ。

「なに、この辺りでも魔物が出るの」
アヤが尋ねると、女将は神妙な面持ちでうなずいた。
「昼はめったに見かけないけどね。夜になると町中にも入ってくるよ」

それまで押し黙っていたヤグチが身を乗り出した。
ミルクしか出してもらえず、ずっと拗ねていたのだ。

「それって強い?」

8 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/11(火) 05:32:40 ID:2WnxhCes0
女将は首を振った。
「小物ばっかり。大人の男相手なら、まず襲ってはこないね。
 でも、子供は危ないよ。この町でも、年に何人か被害にあってるよ」

「ふ〜ん」カオリはカウンターに両肘を着き、ヤグチに目をやった。
「聞いた? 小さい子は危ないんだって。ヤグチも気をつけないと」

「なんだと! てめぇケンカ売ってんのか!」
「実際ヤグチ、小っちゃいじゃん。ほら、ミルク飲んで大きくならないと」
「オイラ、牛乳飲めないって、いつも言ってんだろ!」
「そんなだから、ずっと小っちゃいままなんだよ」
「テメエなんて図体ばっかりでかくって、頭ん中電波飛び交ってんだろうが!」

間に挟まれ、二人のやり取りを聞いていたアヤが、烈しく頭を振って叫んだ。

「もう、アタシ越しでケンカしない!!」

9 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/15(土) 01:48:58 ID:/Rgi4C/50
突然、大きな音を立てて扉が開いた。

「た、大変だ! 子供が魔物にさらわれた!」

それまで和やかだった酒場に、緊張感が走る。
頬に手をやり、心配そうに女将が聞いた。

「誰の子だい?」

飛び込んできた男は首を振った。
「暗くて、それはわからなかった。だが、人間の子供だったのは確かだ」

「どこだ!」
客のひとりが尋ねる。男は、息を切らせ応えた。
「に、西の通りからこっちに向かってる」

テーブルを囲んでいた一団のひとりが立ち上がった。

「よし、俺たちは店の前で待ち構える。町の外に逃げられると厄介だ。
 他のみんなは、町外れで待機してくれ」
「おうよ!」

男たちは、めいめい武器になりそうなものを手にとり店を飛び出した。
ひとりがアヤら三人に声をかける。
「アンタたちは、危ないからここに居な」

「もちろん」カオリは笑顔で応えた。
「頑張ってねぇ」ヤグチは手を振って、男たちを見送った。

10 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/15(土) 01:50:10 ID:/Rgi4C/50
が、ただひとり店に残った男がいる。ヤグチにからんでいた客だ。
男はカウンターの上で手を組んだまま、大きな体を丸めて震えている。

ヤグチが顔を覗き込んだ。「どうしたのぉ。行かないのぉ」
男は、不安げな顔つきでヤグチを見た。「い、行くさ」

ヤグチはわざとらしく辺りを見回した。
「あれぇ、みんな出てっちゃったよ。行くんなら、早く行かなくっちゃ」

「わかってるって!」と吐き出すように言って、のろのろと立ち上がる。
「ぶ、武器になりそうなものは…」

あらかたのものは、他の連中が持ち出してしまっている。

「はい、これ」と女将が大きなフライパンを差し出した。

男は無言のまま震える手で受け取ると
おぼつかない足取りで出口へ向かった。

11 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/15(土) 01:51:38 ID:/Rgi4C/50
しばらくすると、店の外が騒がしくなった。
男たちの怒号、気味の悪い奇声が響き渡る。
店に窓はなく、様子を見ることはできない。
が、喧騒が長く続くことから苦戦していることは想像がついた。

そう強くはないといっても、相手は魔物だ。
子供を傷つけずに助けるのは、容易なことではない。

「大丈夫かね」

扉を見つめながら女将が心配そうにつぶやく。
アヤら三人も、表情を曇らせ入り口に目をやった。

「わああぁ」怯えるような声と共に、扉が蹴破られた。

カオリの足元まで転がり込んできたのは
さきほど出て行ったばかりのフライパン男だ。
「た、助けてくれ!!」

扉の前にはグールが立ちはだかっていた。
小脇にぐったりした小さな男の子を抱えている。
低い唸り声を上げながら、店の中を物色している。

カウンターに置かれた燭台の炎が風に揺れた。
女将が低い悲鳴を上げた。

「まずい、店に入ったぞ」外で誰かが叫んだ。

12 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/15(土) 01:53:05 ID:/Rgi4C/50
ヤグチがカウンターへ躍り上がった。そして弓を構える。
「子供に当てないでよ」
アヤが言うと、矢口は弓を引き絞りながら応えた。
「オイラを誰だと思ってんの!」

放たれた矢は、見事にグールの右目に命中した。
奇声を上げながら、子供を放り投げる。

「カオリ!」ヤグチが声をかける。
「任せて!」カオリは顔の前で魔法陣を切った。

呪文と共に指先をグールに向かって突き出す。
すると、そこから炎がほとばしった。

炎に包まれ、もだえるグール。堪らず外へ逃げ出す。
「逃がさないよ!」アヤが後を追う。

「おおぉ」火だるまになったグールを、男たちが遠巻きに囲う。
店から躍り出たアヤが、剣を抜いた。刀身が仄かに光りだした。
その光は次第に強くなり、目を開けていられないほど、眩しくなった。

そして、光が臨界に達したとき、アヤの髪が逆立つ。

13 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/15(土) 01:55:18 ID:/Rgi4C/50
カオリの放った炎は、すでに消えていた。
焼けただれ傷ついた躯を引きずりながら逃げようとするグールを背後からアヤが襲う。

「とりゃあぁ!!」

力いっぱい剣を振り下ろす。
開放された魔力は、まばゆい光りを放ち
グールを跡形もなく、消し去った。

ふんと鼻を鳴らし、剣を収める。
そこにカオリとヤグチが駆けつけた。

「ちょろい、ちょろい」ヤグチが言うと、カオリも
「たいしたことないね」と薄ら笑いを浮かべた。

「子供は?」
アヤが二人に尋ねると、カオリは首をすくめ答えた。
「ちょっと怪我してるみたいだけど、大丈夫。今、目さました」

「すげえ…」男たちの中から、誰かがそう声を漏らした。
「ア、アンタたち、なに者だ?」

声のするほうに、アヤは体を向けた。
「そうね、俗に言うモンスターハンターって奴」
「しかも、巷じゃあちょっと名の知れたね」
と、ヤグチは胸を張った。

「どうりで強いはずだ。で、名は?」
「別に自分たちで名乗ってるわけじゃないんだけど。その筋じゃ、こう呼ばれてるわ」
アヤの言葉をさえぎって、カオリが大声で叫んだ。

「タンポポ!!」

14 :ねぇ、名乗って:2006/07/15(土) 19:12:45 ID:+Holpc7g0
なかなか面白いよ

15 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/22(土) 00:03:18 ID:fwAo8u1f0
 ── 第一章 好敵手、現る ──

16 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/22(土) 00:04:42 ID:fwAo8u1f0
酒場はいつになく、賑わっていた。
そして、その中心にいるのは、先ほど魔物を退治した、三人の娘たちだ。
彼女たちの前には、さまざまな酒や食べ物が並べられている。全て男たちの奢りだ。
「町を救った、三人の美しき英雄に乾杯だ!」
ひとりの男の音頭に、皆が歓声を上げる。

「そんな、町を救っただなんて」
大げさな歓迎に、アヤは気恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
一方、カオリは男たちの声援に、誇らしげに応えている。
ヤグチはというと、振舞われた酒をあおり、料理にむさぼり付いていた。

「しかし、凄かったよな」
客のひとりが感嘆の声を上げた。それに他の客が応える。
「ああ、なんせ、グールを一太刀だもんな」
皆が一斉にうなずく。

「でもなぁ、名乗りが『タンポポ』だもんなぁ」
誰かがつぶやくと、全員が声を立てて笑った。
カオリがテーブルに手を着いて立ち上がる。
「ちょっと! なにが可笑しいのさ」

「そりゃだってさ、凄腕のモンスターハンターが『タンポポ』だなんて
 可愛らしい名前じゃ、可笑しいに決まってるじゃん」

食べ物を口いっぱいにして、ヤグチが言った。
異を唱えようとヤグチに迫るカオリの肩を、アヤが引いた。

「だからね、その呼び方はやめなって、ずっと言ってるじゃん。
 あたしたちの通り名は、『ダンディライオン』ね、わかった?」

17 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/22(土) 00:06:04 ID:fwAo8u1f0
「ダンディライオン…」商人風の男がつぶやく。
「俺は行商であちこちを渡り歩いているんだが、その名なら聞いたことがある。
 魔剣を使う、凄腕のハンターだって噂だ」

「ほう…」感嘆の声が上がった。
「あれか、さっきの、ぶわっぁって光った奴が、その魔剣って奴か」

なみなみと注がれた酒をひと呑みにして、ヤグチがアヤを指差した。

「そう。でさ、その剣を抜いたときにさ、コイツの髪の毛が逆立ったろ。
 それがライオンのたてがみに似てるってんで、そう呼ばれるようになったんよ。
 おばさん! おかわり」

杯を差し出すヤグチに、女将はため息をついた。
「もう、そのへんにしておき」そして男たちを見回した。
「あんたたちも、朝はやいんだろ。もう帰りなよ!」

18 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/22(土) 00:07:44 ID:fwAo8u1f0
「そりゃないだろう!」
「もう一杯だけ! なっ!」
「いいだろう? 女将」

居座ろうとする者たちを尻目に、女将はかまわずテーブルを片付けだした。
屈強な男たちも、店では女将に従うしかないらしい。
賞賛、ねぎらい、様々な言葉をアヤらにかけながら、男たちは家路についた。
店に残されたのは、彼女ら三人だけだ。

「帰れって言われても…ねぇ」
ヤグチはアヤと顔を合わせた。そして、女将に向きなおる。
「だからさ、ウチら泊まるとこないんだってば」

女将は、背を向けて洗い物をしながら応えた。
「店を出て左にまっすぐ行くと、大きなお屋敷にぶち当たるよ。
 あんたたちが助けた子供の家さ。この町じゃ指折りの有力者。
 泊めてくれるどころか、お礼をたんまり貰えるよ」

あまりにそっけない女将の態度に、三人は顔を見合わせ困惑した。
追い討ちをかけるように、女将が言い放った。

「さあ、店じまいだよ。出て行っておくれ!」

19 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/22(土) 00:09:31 ID:fwAo8u1f0
追い立てられるように店を出た彼女らは、教えられた道を歩んだ。
屋敷はすぐに見つかった。
迎え出たのは、有力者らしい立派な身なりをした、ふくよかな紳士だった。

三人は広い客間に通され、豪華な食事が振舞われた。
席に着いたとたん、すぐさま料理に手を伸ばすヤグチを、
アヤとカオリは「こいつ、まだ食うのかよ」と冷ややかに見つめた。

彼が言うには、今年十歳になる彼のひとり息子は、
屋敷の中庭で花に水をやっているところを、さらわれたらしい。
四方を建物に囲まれていることから、安心しきっていたのだが
認識が甘かったと、今更ながら頭をかいた。

今は寝室で寝息を立てているとのことだ。母親がずっと付っきりらしい。

「本当に助かりました。どうお礼すればいいのか、わからない」

紳士は、ここへ来て何度目かの感謝を述べた。
手を横に振りながらカオリが答える。

「もういいって。ウチら、身にかかる火の粉を払っただけなんだから。ねぇ」

アヤもうなずいた。
「そうですよ。それに、あたしたちは夜露をしのげるだけで十分ありがたいんですから」
「いいじゃん。お礼してくれるってんだからさ。どんどん受けようよ」
「ヤグチ! あんた、ちょっと図々しいって。グール一匹倒しただけでしょ。
 ハンターとしての誇りを持ちなさい」

カオリがそう叱り飛ばすと、紳士は
「いや、魔物の数や強さは関係ない。息子の生命を救って頂いたんだから。
 どうぞ、そのお嬢さんの言うとおり、遠慮しないでください」
と、微笑ましそうに目を細めた。

20 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/22(土) 00:14:52 ID:fwAo8u1f0
「ところで、すばらしい剣をお持ちだと聞いたのだが。拝見できませんかな」

紳士の申し出に、アヤは困惑の色を見せた。
めったやたらに、抜いてみせるものではないからだ。
が、満腹になった腹をさすりながらヤグチは、
「見たいってんだから、見せてやれば」と顎でしゃくった。

アヤはカオリと顔を見合わせた。
「世話になったんだし、いいんじゃない?」
カオリの言葉にうなずき、アヤは立ち上がって剣を抜いた。

刀身が仄かな光を放つ。紳士は見入られるように、顔を近づけた。

「素人が触ると、火傷するよ」ヤグチが悪戯っぽく笑った。

我に返った紳士は、身を引くと「もう結構。ありがとう」
と言ってソファに深く腰掛けた。

アヤは剣を鞘に収めた。紳士は大きくひとつ、ため息をついた。

「それは、もしかして…オリハルコンの剣という奴ですかな」
「よくご存知で」アヤが応える。そのあとをヤグチが補足した。

「これはクイーンソードなんだけどね」
「クイーンソード? オリハルコンの剣にも種類があるのですかな」
「そう。この上にキングソードってのがあって、ウチらそれを探して旅してんのよ」

ヤグチが言うと、紳士は顎をさすりながら、なにやら考え込んでいた。

「それなら、町外れにある武器屋に行かれてはどうですか」

21 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/22(土) 00:16:16 ID:fwAo8u1f0
「武器屋?」アヤは眉をひそめた。

オリハルコンのキングソードは、伝説の剣であって、武器屋なぞで手に入る
代物ではないからだ。その思いを察してか、紳士は首を振った。

「この町にあるのは武器屋と言っても護身用の短剣や鎖帷子を置いているにすぎません。
 貴女がたハンターが使うようなものは、ほとんどないでしょう。
 ましてや、オリハルコンなんてたいそうなものは。ただ…」

「ただ… なんですか?」
「実をいうと、私も詳しくは聞いていないのですが…」

紳士はしばらく思案していたが、思い立ったように
「いや、それは直接、本人から聞いたほうがいいでしょう。
 明日にでも訪ねてみてくだい」
そう言って立ち上がった。

「寝室を用意してあります。今夜はどうぞ、ごゆるりと」

22 : ◆kjXPuSaNuc :2006/07/22(土) 00:18:35 ID:fwAo8u1f0
>>14
初レスですな。ありがとうございます。
「なかなか」が「めちゃくちゃ」になるよう、ガンバります。

23 :ねぇ、名乗って:2006/07/24(月) 17:22:07 ID:2E8XFXvR0
これはまた懐かしい話になりそうですね

24 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/29(土) 01:05:14 ID:E8JRGdb60
翌朝、三人が武器屋を訪ねると、店主は快く迎えてくれた。

「うわぁ、ほんとになんにもないね」

店の中を見回し、ヤグチが言った。
今朝、屋敷を出る際に、もし必要なものがあれば持っていってもかまわないと
言われていた。息子を救ってもらったお礼に、代金はこちらで支払うからと。

だがヤグチの言葉通り、めぼしい物はなにひとつなかった。
短剣や枝切り刀、皮製の胸当てあたりが精一杯だ。

老齢の店主は、顔をくしゃくしゃにして笑った。

「ハッハッ。この辺りじゃ、どでかい剣や重い鎧がいるような
 魔物は出ないもんでね。じゃが、薬草なら一揃い置いてあるぞ。
 回復薬から打ち身捻挫に効く湿布に風邪薬。なんでもござれじゃ」

「薬草はいいよ。そういうの、この人が得意だから」

とカオリがアヤを指差した。

アヤ自身に魔力はなく、剣の力に頼らなければ魔法は使えなかった。
が、薬草の調合は白魔術の知識があれば誰にでもできる。アヤはそれを得意としていた。

ちなみに、カオリの能力は黒魔術寄りで、薬草の調合は苦手だった。

25 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/29(土) 01:06:27 ID:E8JRGdb60
「ところで、聞きたいことがあるんだけど」

アヤが切り出すと、店主は何もかも承知しているといった面持ちで
何度もうなずいてみせた。

「その前にじゃ。腰に提げているその剣を見せてくれんかの」

手を差し出す店主に、アヤは無言で鞘ごと差し出した。
受け取ると店主は、なめるように剣を眺めた。

「これはどこで?」

アヤは腕を組みながら、意地の悪い笑みを浮かべた。

「さあね。『聖なる鐘がひびく街』とでも言っておこうか」

店主は訝しげに眉をひそめたが、ふむとひとつうなずくと、おもむろに柄を掴んだ。
三人は一斉に身を乗り出した。ヤグチが叫ぶ。
「おっちゃん! 危ないって!!」

店主は笑って応えた。

「これでも武器屋の端くれじゃ。こいつがどれほどの物か、十分わかっておる」

そう言うと剣を抜いた。先から付根、表裏とさっと目を通すと、すぐに鞘に収めた。

「なるほど、こりゃ本物だ」

26 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/29(土) 01:08:28 ID:E8JRGdb60
店主から剣を受け取り、アヤは腰に戻しながら聞いた。
「わかるの?」

「わかるとも。若い頃は都にいたもんでな。オリハルコンのソードなら
 何度か目にしたことがある。もっとも、クイーンソードは初めてじゃが」

「じゃ、キングソードは? 見たことある?」

勢いよくヤグチが尋ねると、店主は首を振った。

「そんな伝説の剣、見たことがあるわけなかろう。ただな、ひと月ほど前じゃ。
 キングソードを求めて、二人組の、あんたたちのような女のハンターが現れた」

アヤの目の色が変わる。ようやく、本題に入ったのだ。店主は続けた。

「二人はチョコラブーに向かうと言っておった」
「チョコラブー? なにそれ」

カオリが尋ねると、店主はおやおやと目を見開いた。

「知らんのかね。南に山二つ越えたところにある、大きな街じゃよ。
 以前から、そこの大聖堂の地下に、キングソードが眠ってるとの噂がある」

27 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/29(土) 01:12:19 ID:E8JRGdb60
「!?」三人は店主に詰め寄った。

「そう慌てるでない。ただの噂話じゃよ。そもそも、大聖堂に地下なんぞありゃせん」

「じゃ、なんでそんな話が出てきたのさ」
不満げにカオリが言う。店主は、もっともな質問だと、うなずいた。

「元々、あの辺りは強い魔物が出るでな。つわものを集めるため
 街の議会が意図的に流した流言じゃと、もっぱらの噂じゃ。
 確かに魔物は減った。その代わり、街にはならず者があふれた。
 今じゃ治安は乱れ、元いた住民は、そのほとんどが街を離れた。
 まあ、魔物よりも欲の張った人間の方が恐ろしいってことじゃな」

「なんだ、結局ウソなんじゃん」
カオリがそうつぶやいた。他の二人も落胆の色をみせた。

「若いもんはせっかちで困る。わしの話はチョコラブーのことじゃない。
 そこへ向かった二人組のことなんじゃよ。
 その二人がこの店に現れたとき、店の中には酒場の娘がいた」

「酒場の娘? なんだよ、それ」
ヤグチは眉をひそめた。店は女将がひとりで取り仕切っていたはずだ。

28 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/29(土) 01:14:38 ID:E8JRGdb60
武器屋の店主は、ひとつため息をつくと、目を伏せた。

「そうか、女将はなんにも話さなんだか…。いやな、女将には四人の子供がおっての。
 上の娘二人はもう嫁に出とるんだが、十四と十三の姉弟が残っておるんじゃよ。
 その姉のほうがじゃな、『テラ』で『選ばれし者』になったんじゃ」

「テラ…で選ばれし者?」
アヤは一語一語、確かめるように店主の言葉を繰り返した。

「まさかあんたら、ハンターのくせに『テラ』を知らんのじゃ、あるまいな」

「知ってるもなにも…」カオリはアヤと顔を見合わせた。
「カオリたち二人、その『テラ』の出身だもん」

店主は「ほう」と感嘆の声をあげた。カオリは誇らしげに胸を張った。
が、ヤグチが店主に顔を近づけ、片目を瞑って囁くように言った。

「二人とも、選ばれなかったんだけどね」

余計なこと言いやがって、と頬を膨らませヤグチを睨みつけるカオリの肩を
アヤはたしなめるように、ポンポンと叩いた。そして、改めて店主に尋ねる。

「アタシが訊きたいのはね、なんでその話がウチらの耳に入っていないのかってこと」

29 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/29(土) 01:16:07 ID:E8JRGdb60
「テラ」で「選ばれし者」が出た、と言うのはかなり大きなニュースだ。
しかも今回は当初二名を選定する予定だったのが、あまりの実力差のため
ただ一人が選ばれたというのである。無論そのことは三人も耳にしていた。
が、どこの誰かということは、いっさい噂されることはなかった。
普通なら、本人の出身地に近づくにつれ、大きな話題になるはずにも関わらずだ。

その答えを、武器屋の店主は持っていた。
「女将がな、反対しておったんじゃよ。娘が『選ばれし者』になることを」

娘にしても、まさか自分が選ばれるとは思っていなかった。
参加した理由も、この辺りに出る魔物に対抗する技や知識を身につけたいだけだった。
それがなってしまったのである「選ばれし者」に。
彼女は恥じるように、ひっそりとこの町に戻ってきた。

「帰ってきてからも、そのことはいっさい口にしなかった。
 知っていたのは、本人と女将、それにテラに行くことを薦めた剣の師匠だけじゃ。
 にも関わらずじゃ。例の二人組みは、娘の顔を見るなりこう言ったんじゃよ。
 『迎えに来たよ』とな」

30 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/29(土) 01:18:59 ID:E8JRGdb60
しばしの沈黙のあと、アヤは髪をかきむしりながら言った。

「それはさ、あれなんじゃないの。その二人もテラに参加していた」
「そうそう。じゃないならさ、そのころにテラーザの街にいたんだよ!」
「カオリもカオリも! うーんとね、その二人が選んだからとか!」

いくらなんでも、それはないだろうと、アヤとヤグチはカオリの顔を覗き込んだ。

「アンタらのいう通りかもしれん。ただな、後で女将に訊いた話では、その二人組みは
 娘が『選ばれし者』だと知って、たいそう驚いたそうじゃ」

そして二人組は、酒場の娘を連れてチョコラブーへと旅立った。
女将にとって、もっとも恐れていた事態となったのだ。

「最後は喧嘩別れになってしもうたらしい。『選ばれし者』なぞになるから
 悪い人間に利用されるんだ、そもそも『テラ』なんかに行かさなければよかった。
 そう女将はことあるごとに、ぼやいておるわ」

話を聞き終え、三人はしばらく考え込んでいた。ヤグチがアヤの袖を引っ張る。

「どうする。チョコラブーに行ってみる?」

ひと目で「選ばれし者」を見切ったという二人組の話は、確かに興味深い。
それにキングソードが眠る大聖堂の件も、武器屋の主人が言うように
ただの噂話かもしれないし、そうでないかもしれない。
とにかく、行ってみなけりゃはじまらない。

アヤは、口元を引き締めると、強く言い放った。
「よし! ウチらも、そのチョコラブーとやらに向かおう!!」

31 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/07/29(土) 01:20:49 ID:E8JRGdb60
町を出る前に、もう一度酒場に立ち寄ろうということになった。
「選ばれし者」になったという、娘の情報を仕入れるためだ。
扉を押し開けると、女将が一人で仕込みの最中だった。

「店は夜からだよ……なんだ、あんたたちかい」

女将は大きなため息をついた。三人は尋ねたいことがあると、その前に並んで腰掛ける。
が、女将は「あんたたちに話すことはないよ」と冷たく突き放した。
その後は、なにを訊いても知らぬ存ぜぬの一点張りだ。取り付く島もない。
話が娘に及ぶと、いっそう態度が硬くなった。

「うちに娘なんていないよ! さあ、邪魔になるから出て行っておくれ!!」

仕方なく、三人は店を出た。カオリがプリプリと怒りをあらわにする。

「なにさ、あれ! まるでウチらが娘をさらったみたいじゃん」
「しょうがないさ。ハンターなんてみんなおんなじだって、思ってるんだよ」

いさめるようにアヤは言った。女将の言う「悪い人間」に
自分たちも含まれているのだと思った。
まっとうな商売をしている者から見れば、モンスターハンターなんて
ヤクザな稼業なんだろうと。

「待って!」

町外れに差し掛かったところで、背後から不意に声を掛けられた。
振り返ると少年がひとり、息を切らせ立っていた。
息を整えると、彼はこう言った。

「あんたたち、マキちゃんを探しに行くの?」

32 : ◆kjXPuSaNuc :2006/07/29(土) 01:23:52 ID:E8JRGdb60
>>23
当時のことを思い起こしながら書いているので、そう思ってもらえれば幸いです。

33 :ねぇ、名乗って:2006/07/29(土) 02:27:21 ID:uadCcaUP0
かなり面白いですよ、これw

34 :ねぇ、名乗って:2006/08/03(木) 23:17:10 ID:XHPfAvhs0
今日発見!
面白い!期待!

35 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/04(金) 21:18:55 ID:6vvd860B0
ヤグチが睨みつけながら、少年に近づく。
「ウチらマキちゃんなんて子、知らないよ。っていうかアンタ誰?」

「俺は…」少年は言いかけて、おもむろに背後に目をやった。
辺りに誰もいないことを確認すると、向き直って続けた。
「なあ、俺も連れてってくれよ」

「う〜ん」目を閉じ額に人差し指を充て、ヤグチは少年の前を行ったり来たりした。
「あのさ、まったく話が見えないんだけど。つーかアンタ、ヒトの話聞いてないでしょ」

少年はそれには応えず、背負ったカバンを担ぎなおし再度背後を見た。
すぐに向き直ると、焦るように足をばたつかせる。

「なんでもいいからさ、連れてってくれって!」

アヤが屈んで少年の顔を覗き込んだ。そして、やさしく彼の頭に手をやる。

「落ち着いて聞いて。お姉さんたちね、これから危険なところに行くのよ。
 だから、君みたいな小さい子を連れて行くわけにはいかないの」

「俺、もう子供じゃない! それに小さい子ならそこにもいるじゃん」

と少年が指差した先にはヤグチがいた。誰が小さい子だと詰め寄るヤグチだったが
並ぶと確かに、ほんの少しヤグチのほうが背が低い。
それを見てカオリが嫌らしい笑みを浮かべた。

「そうだよねぇ、ヤグチ小っちゃいもんねぇ」
「小っちゃいって言うなって、いつも言ってんだろ!」
「だって小っちゃいんだもん。しょうがないじゃん」
「てめえ! やるのかゴラァ!!」

36 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/04(金) 21:20:04 ID:6vvd860B0
「もう、子供の前でケンカしない!!」

大声を上げたアヤだが、二人の耳にはまったく届いていなかった。
拳を振り上げるヤグチに、相手してやろうじゃんと、カオリが腕まくりをする。
思ってもいなかった展開に、少年は焦りの色を見せた。

「もう、そんなことしてないでさぁ、早く…」

どうしていいのかわからず、おろおろするばかりの少年の体を
何者かが不意に後ろに引っ張った。
少年が振り返ると、そこにあったのは酒場の女将の険しい顔だった。

「か、かあさん!」
「こんなところでなにしてるんだい、ユウキ!」

女将はいきなり怒鳴りつけた。

「俺はただ、マキちゃんを…姉ちゃんを連れ戻しに…」
「あんなバカ娘のことはわすれるんだよ」

そう言って女将は少年の襟首を引っ張った。そして三人を睨みつる。

「あんたたち、うちの息子をどうしようってんだい!」

37 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/04(金) 21:22:05 ID:6vvd860B0
あまりの女将の迫力に、カオリとヤグチはケンカしていたのも忘れて
呆けたように互いに見合わせた。

「どうしようも、こうしようも、カオリたちなんにも…ねえ」
「そうだよ、ソイツのほうから、からんできたんじゃん!」

そう言ってヤグチは少年を指差した。
女将は少年に顔を向けた。必死で抵抗する少年の体を引き寄せると
逃がさないよう、しっかりと襟首を掴みなおす。
そして三人に視線を戻した。そこには、怒りと言うより悲しみの表情が浮かんでいた。

「とにかく、もうあたしたちに構わないでおくれ! さあ、帰るよ!!」
「放せ! 放せよ!」
「いいからおいで!!」

アヤが口を開きかけたが、反論する間も与えず
女将は嫌がる少年を引きずって立ち去った。
なにがなんだかわからず、残された三人は呆然とした。

「なにさ、あれ。カオリ、悪いことなんもしてないのにさ」

不満げに言うカオリの肩を抱こうと、ヤグチは手を伸ばした。
が、肩甲骨の下辺りまでしか届かなかった。

「なんでもいいよ。もう、こんなしけた町なんかに用はないし。行こ行こ」

ヤグチを先頭に、三人は歩き出した。
怒りが収まらないのか、カオリは足元の雑草を蹴飛ばした。

アヤは気に掛かることでもあるのか眉を曇らせ
女将たちが去った道を、一度だけ振り返った。

38 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/04(金) 21:25:19 ID:6vvd860B0
夕焼けが空を染める中、落ち葉の舞い散る山道をアヤたちは進んだ。
チョコラブーに行くには三日三晩かけ、山を二つ越えなければならない。
道中に村はひとつあるが、そこにたどり着くには二日かかると
武器屋の店主は教えてくれた。

つまり、今夜はどうあっても野宿は避けられない。
なれば急ぐ必要はなかった。安全で快適な寝床を探すほうが大切だ。

地面に魔法陣を描き、その中で野宿すれば、大抵の魔物は襲ってこない。
が、風が強い日や、この地のように落ち葉が堆積する場所では
魔法陣が消えたり隠れたりすることで、効果がなくなってしまう。
そうなると、交代で夜通し見張りを立てなければならなくなるのだ。

アヤは山を登る前に、望ましい場所を見つけていた。
頂にほど近い、山道から少し離れた崖の下だ。
そこならば、木々はまばらで、今日は風もほとんど吹いていないため
ゆっくりと眠りに就くことができる。

頂を越えなければ二日目の行程がきつくなると、店主からは言われていた。
が、数時間おきに起こされ、寝不足で一日中歩くことを思えば
あえて冒険を犯すより、確実に安眠できる場所を確保したほうがよほどいい。

「この辺じゃないかな」

ヤグチは山道から脇にはずれ、茂みの中に分け入ってその先を探った。
つい先ほどまでは、木々の間から崖の岩肌が見え隠れしていたのだが
手前の樹木に阻まれ、今はまったく見えない。
目的地に近づいた証拠でもあるが、通り過ぎないよう確かめる必要も出てきた。

39 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/04(金) 21:27:20 ID:6vvd860B0
茂みをかきわけ、ヤグチが戻ってくる。
「ここじゃないみたい。もうちょっと先だね」

夕闇が迫る空を見上げ、カオリはため息をついた。

「はあ…馬車があったらなぁ。こんなとこで野宿なんてしなくていいのに。
 ねえ、チョコラブーに着いたらさ、馬車買おうよ、馬車。
 それがダメならさ、馬だけでもいいよ。ねっ、買お!」
「贅沢言わないの。旅は歩きが基本。さっ、行くよ」
「なにさ、アヤッペのケチンボ!」

「アヤッペ」と呼ばれ、アヤはムッとしてカオリを睨みつけた。
通り名を「タンポポ」と言うのに並んで、彼女はそれを嫌がっていた。
無論、カオリも知っていてわざと言っているのだ。

「絶対、買わない。意地でも買わない。買ったってカオリは乗せてやんない!」

肩をいからせ大股で歩き出すアヤを、ヤグチが制止した。
「待った! 誰か来る」

耳を澄ますと確かに駆けるような足音が聞こえた。三人は臨戦態勢に入った。
山道は曲がりくねっており姿は見えないが、気配は確実に近づいていた。
そろそろ魔物が出てもおかしくない時間帯だ。この辺りに強い魔物はいない。
が、いかなる場合でも手を抜かないのが、凄腕のモンスターハンターの基本だ。

ところが、足音の主が姿を現したとたん、彼女らは拍子抜けした。
カオリが驚きの声を上げる。

「アンタ、今朝の!」
「はあ、はあ……やっと追いついた」

酒場の女将に連れ戻された少年、ユウキだった。

40 : ◆kjXPuSaNuc :2006/08/04(金) 21:30:28 ID:6vvd860B0
>>33
「なかなか」から「かなり」に昇格ですねw

>>34
まだはじめたばかりですが、期待に応えられるようがんばります。

41 :AK:2006/08/04(金) 23:04:09 ID:xGgU9p7d0
かなりから超だね。

42 :ねぇ、名乗って:2006/08/09(水) 01:50:32 ID:NEEih0Sk0
更新待ってるYO

43 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/12(土) 02:21:39 ID:UjHIm5fI0
「ここまでひとりで来たの?」

呆れるようにアヤが尋ねると、ユウキは息を切らせながらうなずいた。

「危ないから帰んな…って今からじゃ、よけい危ないか。どうする?」
ヤグチが尋ねると、アヤは腕組みをしてユウキに話しかけた。
「しょうがない、今夜はウチらと一緒にいなさい。話だけなら訊いてあげる」

アヤらはユウキを伴って先に進んだ。しばらくして、再度ヤグチが脇に入る。
彼女は戻ってくると、茂みの向こうから両手で大きな円を描いた。
今度こそ当たりだったようだ。三人はヤグチの後を追って藪の中に入った。

そこはアヤが予想していた通りの場所だった。
周りに木々はなく、落ち葉が堆積する心配はない。
おまけに、頭上にはハングした岩が張り出しており
仮に雨が降ってもしのげそうだ。

カオリが小さな袋から一掴みの砂を取り出した。そして、屈んで顔を地面に近づけた。
手を前に差し出し、慎重に握った砂を地面に落とす。そうやって魔法陣を描くのだ。
手の中の砂がなくなると、また袋から掴みだす。その作業を繰り返す。

何度目かに袋に手を突っ込んだカオリは、空を見上げヤグチを手招きした。

「暗くなってきたからさ、ちょっとここ照らしてよ」

ヤグチは松明を取り出しカオリに歩み寄った。松明をカオリに突き出す。
カオリがその先に指先を近づけると、一瞬にして火が燈った。

44 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/12(土) 02:23:43 ID:UjHIm5fI0
邪魔にならないよう、アヤは崖を背に腰を下ろした。
装備を解いて楽な姿勢になると、ユウキに隣に座るよう促した。

「確認したいことがあるんだけど、いいかな。キミ、酒場の女将の子だね。
 それでマキちゃんってのが、例の『選ばれし者』になったお姉さん」

突然、カオリが顔を上げた。

「えっ! それホント?」
「気づいてなかったのかよっ!」
「なに、ヤグチも知ってたの? だって…カオリ聞いてないもん」
「今朝、女将が言ってたろ。いいからサッサとやれよ。オイラ、手ェ疲れた!」
「なにさ、ヤグチがちゃんと照らさないから時間かかんじゃん!」

またもケンカを始めようとするふたりに、アヤが声を上げた。
「ケンカはいいから、早く仕上げてよ!」

ふたりはしばらく睨み合っていたが、ヤグチが無言で松明を差し向けると
カオリもふくれっ面のまま、地面に顔を向けた。

その様子に苦笑いを浮かべるアヤだったが
真顔になると「違うかな」とユウキの顔を覗き込んだ。
ユウキは抱えた膝の間に、顔をうずめた。

45 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/12(土) 02:25:17 ID:UjHIm5fI0
「あの日、あの二人がやってきて…かあさんと長い間、話してた。
 かあさん、えらい怒って、二人を追い返したんだ」

「おかあさんたち、なに話してたの?」

アヤが尋ねるとユウキは首を振って「わかんない」と答えた。

「で、かあさんその晩帰ってきたマキちゃんと大ゲンカして。
 『もうあんたはうちの子じゃない、好きにすればいい』なんて言っちゃって。
 そしたらマキちゃん、荷物まとめて出て行っちゃって…」

「それ以来、お姉さん帰ってこないのね」

アヤの問いに、ユウキはうなずいた。

「きっと、あの二人に着いてったんだ」

つぶやくように言うと、ユウキは悔しそうに眉を寄せた。
ぼんやりと見つめる視線の先には、魔法陣を作るふたりの姿があったが
おそらく、彼の目にはなにも映ってはいないだろう。

46 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/12(土) 02:26:52 ID:UjHIm5fI0
「でさ、その二人組って、どんなだったのよ」

松明を掲げ、ヤグチが近づいた。どうやら魔法陣は完成したらしい。
カオリが立ち上がって手の砂を払っている。

「どんなって…」ユウキは思い出すように視線をくゆらせた。
「ひとりはあのヒトみたいな白いマントを着ていた」

そうカオリを指差す。マントが白いということは、白魔術師なのかもしれない。

「それで、なんだか大きな荷物を担いでいたよ。
 顔はね…鬼瓦みたいだった! それで、ここにほくろがあった」
と唇の下を指差す。

「もうひとりは?」

アヤが訊くと、ユウキは遠い目をした。

「なんか…すっごく透明感のあるヒトだった…おっきな目してて
 男みたいに髪、短いんだけど全然女の人って感じで…」

「なに、好きだったの?」

カオリが茶化すと、ユウキは耳まで真っ赤にして否定した。

「そんなんじゃないよ! 第一、マキちゃん連れてっちゃったし…」

消え入るように言いながら、ユウキはまた膝の間に顔をうずめた。

47 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/12(土) 02:28:40 ID:UjHIm5fI0
「なんだかよくわかんないけど、とりあえず、ひとりは鬼瓦みたいな顔で
 もうひとりは髪が短いってことだね」

そう言って、ヤグチは腰に手を当てアヤを見た。アヤの口からため息が漏れる。
チョコラブーは相当大きな街らしい。この程度の情報では人探しの役に立たない。

アヤは立ち上がって尻についた砂を払った。

「魔法陣ができたようだし、向こう行って話そうか」
「魔法陣って…あれが?」

ユウキの知る魔法陣とは、呪文や紋様でびっしり埋め尽くされたものなのだが
そこにあるのは、砂で描かれた単なる大きな円でしかなかった。
とてもじゃないが、魔物から身を守れるようには思えなかった。

「もう、ちゃんとよく見てよね」

カオリが憤っていう。ヤグチが意地悪い笑みを浮かべながら
魔法陣のふちを松明で照らした。
首をかしげながら、ユウキは照らされた先に顔を近づけた。
遠目には一本の線にしか見えなかったのだが
そこにはびっしりと紋様が描かれている。

「すごいや!」ユウキは驚いてカオリの顔を見上げた。

「踏んづけたぐらいじゃ消えないから。今夜は安心して眠れるよ」

カオリは、どうだと言わんばかりに胸を張って、自慢げな笑みを浮かべた。
が、ヤグチがその前を横切りながら小声でつぶやいた。

「カオリのは、あんまり強い魔物には通用しないけどね」

48 : ◆kjXPuSaNuc :2006/08/12(土) 02:51:30 ID:UjHIm5fI0
>>41
超、ですか。ありがとうござます。
でも、そこまで言われると、ちょっとプレッシャーw

>>42
お待たせしました。

出来れば週2回更新が理想なんですが、なかなか思うように筆が運ばず
現状、週一ペースがやっとです。

49 :ねぇ、名乗って:2006/08/16(水) 01:01:01 ID:yJvXq9a50
鬼瓦ってwww

50 :AA:2006/08/16(水) 19:03:00 ID:A8Kp/jRn0
これマジで面白いよ。
続きはやく!!

51 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/19(土) 02:01:23 ID:e8UAD9iy0
魔法陣の中心に焚き木を燈し、四人はその周りを囲んで座った。
夕食は薬草を煎じて作ったスープだ。ユウキはひと口啜って、顔をしかめた。
が、アヤから栄養満点だからと薦められ、鼻をつまんで一気に飲み干した。

「それで、その家出した姉貴を連れ戻したいわけだ」

ヤグチが言うと、ユウキは黙ってうなずいた。

「どうする? オイラとしては、連れてってやってもいいかなって、思うんだけどさ」
「ホント!?」

思いがけないヤグチの発言に、ユウキは腰を浮かせた。
が、他の二人は浮かぬ顔をしている。

「カオリは反対。だってさぁ、チョコラブーって、悪い奴がいっぱいいるんだよ。
 こんな子供、連れてっても足手まといになるだけじゃん」
「でもさ、ウチら誰も相手の顔知らないじゃんよ。この子連れてったら役立つよ、絶対」
「う〜ん、でもなぁ…アヤはどう思う?」

アヤは目を閉じ、しばらく考え込んでいたが、ふと顔を上げると言い放った。

「やっぱり連れてけないね。夜が明けたら家に帰んなさい」

52 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/19(土) 02:03:52 ID:e8UAD9iy0
「なんで? なんでだよ! この人はいいって言ってるじゃんよ!!」
ヤグチを指差しながら、ユウキはアヤの肩に掴みかかった。

「剣の師匠からは、姉ちゃんより筋がいいって言われてるんだ。
 足手まといになんか、ならないよ! 連れてってくれよ!」

「考えたげなよ」とヤグチが助け舟を出す。
「選ばれし者になった姉貴より筋がいいってんだから、使えるかもよ?」

「そういう問題じゃないんだけどなぁ」
アヤは渋い表情を作り、頭をかきむしった。

「頼むよ! 絶対、役に立つからさぁ!!」

懇願するユウキの顔を、困惑しながらもアヤはじっと見据えた。
「……わかった。じゃあテストしてあげる。ついといで」

そう言うとアヤは、元来た山道とは逆の、深い森に向かって歩き出した。
ぼんやりとその後姿を見送るユウキの背中を、ヤグチはポンと押した。
ユウキはひとつ力強くうなずくと、アヤの後を追った。
カオリとヤグチも松明を片手に続いた。

53 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/19(土) 02:05:36 ID:e8UAD9iy0
しばらく進んだところでアヤは腰を落とし、身を隠した。
三人が追いつくと、振り返りヤグチに松明を消すように指示する。

松明の火が消えると、辺りは闇に包まれた。ユウキは視線を巡らせたが、何も見えない。
ザワザワと風に揺れる枝の音が、周りを何者かが徘徊しているように聞こえる。

カオリがユウキの肩を叩き、アヤの背中越しに指差した。
が、ユウキにはカオリの手すら見えない状態だ。
苛立ったヤグチが、彼の頭を掴んでカオリの指先の方向に顔を向ける。

「あれ、見える?」

アヤがささやくように言った。ユウキは目を凝らした。

闇に目が慣れていくと、星明りに照らされ、何かがうごめいているのがわかった。
獣のようだ。体はそう大きくはない。風の音に紛れ、荒い鼻息が聞こえる。
どうやら、まだこちらには気づいていないらしい。

「ゴブリンよ」

アヤは振り返るとユウキに太い枝切れを差し出した。

「さあ、あれがあなたの獲物。がんばって」

54 : ◆kjXPuSaNuc :2006/08/19(土) 02:09:48 ID:e8UAD9iy0
多忙につき短め更新申し訳。

>>49
まあ、13才の子供のいうことですからw

>>50
お待たせしました。にも関わらず、ホント短くってすみませんw

55 :ねぇ、名乗って:2006/08/24(木) 13:46:57 ID:gzbIiJ9B0
続き期待

56 :ねぇ、名乗って:2006/08/25(金) 00:33:39 ID:8tOtYtwZ0
age

57 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/25(金) 23:39:48 ID:cO/X/MTk0
ユウキは、不安げな面持ちで三人の顔を見回した。
カオリが黙ってうなずく。ヤグチは早く行けと手を振った。
ひとつ唾を飲み込み、アヤの手から枝切れを受け取った。

意を決し一歩踏み出す。足元の草がガサッと音を立てた。
気配に気づいたのか、ゴブリンの鼻息が止まる。
真っ黒なシルエットの中に、不意に赤い光が、二つ灯った。

―こっちを向いた― ユウキの背筋に、冷たいものが走った。
思わず振り返る。が、そこには風に揺れる木々の音しか聞こえない。
モンスターハンターの三人は、完全に気配を消していた。

「グルルルル…」低い唸り声が聞こえる。
ユウキは慌てて視線を戻した。

黒い影が立ち上がった。
そしてユウキとの距離を一定に保ちながらゆっくりと動き出した。

ユウキは両手で枝切れをしっかりと握り、前に差し出して牽制した。
相手は自分の背丈の半分ほどしかない。勝てる、勝てるはずだ。
そう思いながらも、足がすくんで思うように動かない。

「ギャアァァ!」

突然、ゴブリンが奇声を発しながら両手を振り上げた。
驚いたユウキは、思わず後ずさった。足元がふらついて、転びそうになる。

その隙を突いて、ゴブリンが襲い掛かったきた。
体勢を立て直し、枝切れを必死で振り回し抵抗する。
姉と共に学んだ剣術など、全て頭の中から抜け落ちていた。
とにかく今できるのは、めちゃくちゃに振り回すことだけだ。

58 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/25(金) 23:41:28 ID:cO/X/MTk0
ゴブリンの腕だか指先だかに、枝切れがヒットした。
ゴブリンは腕を引っ込め、横に飛び跳ね身をかわした。

「うわぁぁ!」

それを見てユウキは枝切れをゴブリンに向かって振り下ろした。
が、すんでのところで避けられた。地面に打ちつけ、前のめりになる。
突然、顔面に鈍い痛みが走った。
なんだかわからないまま、後ろに倒れこむ。

すぐさま上半身を起こす。ゴブリンが向かってくるのが見えた。
早く立ち上がらなければ、と思うのだが
スローモーションのようにゆっくりとしか体が動かない。

―やられる!― そう思った瞬間、ゴブリンが後ろに飛びのいた。
目を凝らすと、ユウキとゴブリンの間に、一本の矢が刺さっているのが見えた。

ゴブリンは矢の飛んできた方向に体を向けた。
両手を挙げ威嚇するが、足元に矢が刺さると後ろに飛び跳ねた。
続けて二本、三本とゴブリンの足元を矢が襲う。
そのたびにゴブリンは後ずさり、かなり距離が開いたところで
後ろを向いて逃げ出した。

柔らかな灯りが燈り、呆然とするユウキの顔を照らし出した。
ゆっくりと光源に顔を向けると、そこには松明を持ったアヤの姿があった。

「わかったでしょ、あなたには無理」

59 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/25(金) 23:43:03 ID:cO/X/MTk0
ユウキはうつろな視線を足元に送った。
が、さっと顔を上げると、這うようにしてアヤに近づいた。

「ずるいよ! だって、そっちはちゃんとした武器、持ってんじゃん。
 あんな棒切れ一本じゃ、不利に決まってるじゃん!」

アヤの背後からヤグチが現れ、ユウキに近づいた。
そして、無言のまま弓と矢を差し出す。
ユウキがそれを受け取ると、一本の太い木を指差した。

「あそこ狙ってみ。命中したら褒めてやるよ」

ユウキは顔を引き締めると、立ち上がって標的を見た。
松明の灯りに、太い幹が浮かび上がる。
七、八歩しか離れていない。簡単だ、と弓に矢をつがえた。

ところが、玩具にしか見えなかったその弓は
思いのほかきつく弦が張られていた。
強く引こうとすると先端がぶれて、狙いがなかなか定まらない。
引き手に力が入らなくなり、的を絞り込めぬまま
とうとう堪えきれず指を離した。

60 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/25(金) 23:44:24 ID:cO/X/MTk0
矢は標的とはまったく違う方向に、力なく飛んだ。
そして手前の木の幹に当たると、刺さることなく地面に落ちた。

「貸してみな」

ヤグチはユウキの手から弓を奪うと、すぐさま矢を放った。
風を切る心地よい音と共に、矢は見事標的を捉えた。

ユウキは崩れるようにして、その場にへたり込んだ。
アヤが優しくユウキの肩を抱く。

「もう、気が済んだでしょ。夜が明けたら山を降りなさい」

応える気力もなくしたユウキを立たせると、服についた泥を払った。
ゴブリンに殴られ腫れ上がった頬に手を当て、笑みを浮かべた。

「酷い顔してるね。魔法陣に帰ったら、薬草を貼ってあげるよ」

61 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/08/25(金) 23:46:08 ID:cO/X/MTk0
翌朝、肩を落としとぼとぼと山を降りるユウキを見送りながら
ヤグチはアヤの袖を引いた。

「ねえ、ちょっとかわいそうだったんじゃない?」
「いいの、あれで」
「あの子の面倒ぐらいだったら、オイラがみてやってもよかったしさぁ。
 それに、弟がこっちにいれば『選ればれし者』の娘も引き込めたかもしれないし」

「いいのよ。だって、あの女将を一人っきりにはできないでしょ」

ヤグチはカオリと顔を見合わせ、ひとつ息をついた。
「まあ、しょうがないか」

カオリが首をほんの少し傾け、それに続ける。
「しょうがないよ」

ユウキの姿が見えなくなると、アヤは踵を返した。

「さっ、行こ! 早くしないと日暮れまでに次の村に着かないよ!!」

そう言って大股で歩き出すアヤを、ヤグチとカオリは慌てて追いかけた。

「ちょっと、待ってよ! オイラ、そんなに早く歩けないって!」
「そうだよ! アヤッペ、急ぎすぎ!!」
「アヤッペって呼ばない!!!」

朝の澄んだ空気に、かしましい声が響き渡った。

62 : ◆kjXPuSaNuc :2006/08/25(金) 23:56:49 ID:cO/X/MTk0
>>55
どうもお待たせです。

>>56
小説総合スレがなくなったので更新時にageるようにしてるのですが
他の作者さんてどうしてるんですかね? 
っていうか今、生きてる羊小説っていくつぐらいあるのかな?

知ってる人がいたらネタ・小説総合スレに紹介してほしいです。

63 : ◆AvluhZaSuE :2006/08/26(土) 02:07:41 ID:3r7SNGKV0
>>62
更新お疲れ様です!
れいな処女スレ、愛絵里妹スレ他で作品を書いてる者です。
最初から読ませて頂きましたが、かなりツボですw
この3人パーティーも、何ともいえない雰囲気を醸し出してますね。
個人的には、クールなアヤがとてもgoodですw

>更新時にageるようにしてるのですが他の作者さんてどうしてるんですかね?
羊はもともと人少ないんで、age・sageはあんまり気にしなくて良いかと。
ちなみにオレが書かせてもらってるスレでは、オレも含めて皆さん普通にageてますね。
>今、生きてる羊小説っていくつぐらいあるのかな?
オレも小説スレは探してますが、確かにあんまりないですね・・・。

今後も大いに期待してます!
頑張って下さいね♪


64 :ねえ、名乗って:2006/09/01(金) 15:00:58 ID:aC+Uvdrd0
あげとくよ
待ってるから


65 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/02(土) 01:04:51 ID:x2TKNfzc0
「まるで廃墟だね」

街に一歩踏み入れたアヤの第一声はそれだった。

聞いていた通り、チョコラブーは確かに大きな街だった。

立派な屋敷が立ち並び、メインストリートには石畳が敷かれ
様々な看板を掲げた店舗がひしめいていた。

かつては、馬車や人々が行きかい、活気にあふれていたであろうことは
たやすく想像できた。

が、今は見る影もない。

屋敷は窓が割られ、扉が傾いている。
石畳の隙間からは雑草が生え放題で
営業している店はほとんどなく
人影もまばらで、その足取りは重い。

「とにかくさ、大聖堂に行ってみようよ」

カオリが提案する。とは言え、どこにあるのかわからない。
道を尋ねようと、辺りを見回す。

主を失い朽ちた店舗の、破れた日よけの下に
うずくまるようにして座り込んでいる男がいた。
カオリはその男の元に駆け寄った。

「ねえ、大聖堂に行きたいんだけど、どう行けばいい?」

66 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/02(土) 01:10:20 ID:x2TKNfzc0
男が顔を上げた。その目に生気は感じられない。
なにもかも、生きることにさえも興味を失った、そんな風情だった。

「ねえ、聞いてる?」

カオリが訊くと、男は億劫そうに重い口を開いた。

「やめときな。聖職者は誰一人と残ってねえ。ならず者がたむろしているだけだ」
「いいの。カオリたち、懺悔しに行くわけじゃないから」
「そっ。そこに眠る伝説の剣ってのを探しに来たんだよ」

ヤグチが言うと、男は顔をしかめ、それっきり口を開かなかった。

「なにさ、感じわる〜い! もういいよ。行こ」

カオリが立ち去ろうとすると、その男は黙ったまま通りを指差した。

「こっち?」

同じようにカオリも指差す。男はなにも答えない。
どうしたものかと弱り果てるカオリに、ヤグチが声をかけた。

「なんか喋りたくないみたい。いいじゃん、とにかく行ってみよう」
「そうだね。…ありがと」

男に礼を述べ、カオリは歩き出した。ヤグチはじゃねと手を振り、その後を追った。
目だけを動かしその姿を追う男に、アヤは黙って頭を下げた。
男は顔をそらし、なにか汚いものを見たかのように口元をゆがめた。

67 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/02(土) 01:12:18 ID:x2TKNfzc0
陽が落ちると、日中閑散としていた街並みに、人の姿が戻ってきた。
とはいえ、どうみても善良な住民には見えない。
怪しげな商品を扱う物売り、獲物を狙うようにギラついた視線を巡らす大男
一癖も二癖もありそうな輩ばかりだ。
皆がオリハルコンのソードを求め集まってきたのかと思うと、ゾッとしない。

かなりの距離を歩き回ったにも関わらず、大聖堂は見つからなかった。

「なんでもいいけどさぁ、オイラ腹減ったよ」

鉱山町の屋敷で朝食をご馳走になって以来、まともな食事をしていない。
もうフラフラで倒れそうだと、ヤグチは訴えた。

「そうね…」

食べ物を扱っている店はないかと、アヤは辺りを見回した。
薬草のスープや木の実の食事に飽き飽きしているのは、ヤグチばかりではない。
アヤやカオリも、そろそろちゃんとしたものを食べたいと思っていた。

しばらく歩くと、狭い路地の奥に酒場の看板が見えた。
窓からは明かりが漏れている。どうやら営業してそうだ。

この街の雰囲気からして、たいした料理ができるとは思えない。
それでも空腹を満たすことはできるだろう。

「あそこにするか」

アヤがそうつぶやいたときには、すでにヤグチは店に向かって駆け出していた。

68 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/02(土) 01:15:38 ID:x2TKNfzc0
店は思いのほか広く、そして賑わっていた。
客の中には、テーブルに肉料理に魚料理、サラダにワインなど所狭しと並べている者もおり
予想に反して、かなりまともな食事が期待できた。

「とりあえずウォッカ! あと、なんか旨いモン喰わしてよ」

カウンター席に飛び乗ると同時に、ヤグチは大声を上げた。
背を向けていた若い男の店員が、驚いて振り返る。
そしてヤグチの顔を見るなり、にやけて小さく口笛を吹いた。

ヤグチはむっとした。毎度のことだが、子供がどうだの、酒はまだ早いだのと
イヤミを言われるのだろうだと身構えた。
遅れて席に着いたカオリがクスクスと笑う。アヤはそれをたしなめ苦笑する。

が、この若い店員の反応は違っていた。

「失礼。気を悪くしたなら謝るよ」とウォッカを差し出す。
「この街に若いお嬢さんは珍しいんでね。しかも新顔となれば、なおさらだ」

「見たところ大きな街のようだけど、そんなに少ないの? 若い娘さんって」

街の雰囲気からして想像はついたが、アヤはあえて訊いた。
それが本当なら、例の三人組を探すのが容易になるからだ。

「そりゃあこんな街だからね。昼間でも女ひとりで出歩くのは危ないよ。
 飢えた男どもがほっとかないさ。
 …まあ、お客さんたちなら、襲われる心配はないだろうけど」

69 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/02(土) 01:18:02 ID:x2TKNfzc0
「ひどーい! これでもカオリ、結構モテるんだかんね」

とカオリは口を尖らせた。店員が笑って応える。

「そういう意味じゃないさ。今この街に残っているのは、相当腕の立つ奴ばかり。
 ひと目見れば、アンタたちがどれほどの実力者かってことはわかるよ。
 手を出すような身の程知らずは、いないってことさ」

「なるほど」アヤは笑みを浮かべた。「ヒトを見る目はあるようね」

「お褒めにあずかり光栄」

そう言って男は料理を差し出した。ヤグチが喜色を浮かべる。話なんて聞いちゃいない。
食べ盛りの十六歳、色気よりもなによりも、まずは食い気だ。
むさぼり食うヤグチを尻目に、アヤは質問を続けた。

「その眼力を見込んで訊きたいんだけど」
「なんです?」
「この街に『選ばれし者』が来ているって聞いたんだけど知ってる?」
「選ればれし者?」

男はあごに手をやり首をひねった。
「いや、知らないな。どこでそんな噂を?」

「この街に来る途中のね、小さな鉱山町…」

そう言いかけるカオリの前に、アヤは手を差し出し遮った。
この男が知らないということは、ここでも本人が「選ばれし者」であることを
伏せているということだろう。でなければ、少しぐらいは耳にするはずだ。
ならば、こちらから情報を提供する必要はない。

70 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/02(土) 01:20:56 ID:x2TKNfzc0
アヤはわざとらしく肩をすくめてみせた。

「知らないならいいのよ。どうやらガセを掴まされたみたいね。
 ところで、アタシたち大聖堂に行きたいんだけど」

男の口元に、ほんの少し笑みが浮かんだ。

「アンタたちも幻の剣を求めてやって来たんだね」

なにやら含みがありそうなそのいい様に
カオリは男の顔を指差し大声を上げた。

「あぁー! そっちも狙ってるんだぁ、キングソード!」

が、男は涼しい顔でふんと鼻を鳴らした。「まさか」

「なに、じゃあなんでこんな街にいるのさ」
とカオリは疑わしげな眼差しで男を見た。

「この街には、アンタたちのように幻の剣を求めて大勢の人間が集まる。
 道楽者の富豪に雇われた者、一発当てようとする山師
 モンスターハンター、それにトレジャーハンターなどなど。
 金持ってる奴らばかりね。俺たちはそういうのを相手に商売をしてるわけさ」
 
「ってことは、幻の剣ってのもガセ……なのかな?」

アヤが悪戯っぽく尋ねる。男はそれには答えず、新たな料理をカウンターに置いた。

「大聖堂に行きたいなら、とにかく南に向かえばいい。
 なんせこの街の最南端にあるんだから。
 この店を出て左に行って、大通りに出て左を向いたらそっちが南。
 そっから先は道が入り組んでいるけど、方角さえ間違えなきゃたどり着けるよ」

71 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/02(土) 01:23:24 ID:x2TKNfzc0
さらにもう一品、料理を差し出しながら男は続けた。

「剣のことが聞きたいのなら、大聖堂の目の前にある武器屋に行くといい。
 数少ない元からいる住人だ。本人は千年この街に住んでるって豪語してるが
 俺の見立てじゃ、二百歳がいいところだな。
 とにかく剣のことはもちろん、大聖堂の歴史についても詳しいよ」

男の話に聞き入るアヤとカオリをよそに
ヤグチは盛られた料理をまじまじと見つめていた。

「ねえ、これなにさ?」
「ああ、牡蠣だよ。レモンを絞って食べるといい。けっこういけるよ」
「ふーん」

ヤグチは皿を持ち上げ、上から横からと様々な方向から眺めた。
はじめて見る食べ物に興味津々だ。
突然、カオリが横からフォークで牡蠣を突き刺した。
そのまま口の中に放り込む。

「なんだよ! オイラが一番に食べようと思ってたのに!」
「いいじゃん、別に。……美味しいっ。いけるよ、これ」
「返せ! オイラの牡蠣、返せよ!!」

「もう、いい加減にしてよ」

ところを選ばずケンカ三昧のふたりに、アヤは頭を抱えた。
男が杯を磨きながらカウンターに肘を着いてアヤに体を寄せる。

そして一言、ささやいた。

「仲睦まじい、おふたりだねぇ」

72 : ◆kjXPuSaNuc :2006/09/02(土) 01:29:08 ID:x2TKNfzc0
>>63
ツボですかw ありがとうございます。
>この3人パーティーも、何ともいえない雰囲気を醸し出してますね。
基本的に小説はキャラだと思っているので、そう言って貰えると一番嬉しいです。

age・sageについては気にしないことにします。

>>64
お待たせしました。楽しんでもらえたでしょうか。

73 :ねぇ、名乗って:2006/09/07(木) 02:16:46 ID:w7kSBbOd0

ほんと羊は小説少なくなりましたね〜
自分が読んでるのは今ではここと仮面ライダーののぐらいかな?
って言うか、飼育も新作少なく鳴ってきたし。


74 :ねぇ、名乗って:2006/09/07(木) 18:46:12 ID:KkO2idA70
誰かおもらし小説書いて欲しい

75 :ねぇ、名乗って:2006/09/08(金) 05:47:25 ID:u1w7no6D0
>>74 モーニング娘。のおもらし小説を書こう http://tv8.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1127110404/l50
モーニング娘。のスカトロ小説を書こう http://tv8.2ch.net/test/read.cgi/ainotane/1133750493/l50
スレ一覧で検索ぐらいかけろよ

76 :ねぇ、名乗って:2006/09/09(土) 00:18:09 ID:rMCwucyC0
<作者さんが少ないからこそ、小説は感想が大事>

>>72
更新乙です!
勝手にパーティーのステータス作ったりして楽しく読ませてもらってますw
このストーリーって完全オリジナルですよね?
RPGツクールなんかで作ってみると面白いかもしれないですね


77 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/09(土) 01:41:03 ID:i0O7BPT40
急に店の奥が騒がしくなった。カウンターの男は姿勢を正すと騒ぎの先に目をやった。

「おやおや、身の程知らずの男が、まだ居たようだ」

アヤらも振り返った。が、柱の陰になっていてよく見えない。
それほど興味のないアヤはすぐに顔を戻した。
カオリはよく見ようと椅子から腰をずらし、体をのけぞらせた。

カオリの様子を上目遣いで見ていたヤグチが、ゆっくりとカオリの腕に手を伸ばした。
そして背後に気を取られている隙を突いて彼女のフォークを自分の口元に運んだ。

「あっ!」

気づいたときにはもう遅い。ヤグチは牡蠣に舌鼓を打ちながら椅子から飛び降りていた。

「うめぇ!!」

してやったりと笑みを浮かべるとヤグチは、柱の影まで駆け
片足立ちになって首を伸ばし、騒動に目を向けた。

店の一番奥の、壁を背にした席で
鎖で編んだ鎧に身を包み、鉄の兜を被った髭づらの
いかにも山賊といった風情の大男が
立ったまま片手をテーブルに着いて大声で叫んでいた。

そのテーブルには、ひとりの少女が着いており
怯えたような表情で大男を見上げている。

「あっ、あれ!」ヤグチは小さく叫び声をあげた。

78 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/09(土) 01:42:28 ID:i0O7BPT40
「もう、なにさ!」
煩わしげに言いながら、カオリはカウンターにフォークをつき立て
膨れっ面のままヤグチに顔を向けた。

「こっち来て見てみろって」
「カオリの牡蠣、食べたぁ」
「そんなことはいいから、こっち来いって。間違いない、あのコだよ!」
「なにぃ、なんのことさ」

億劫そうに腰を上げるカオリに、騒ぎだけは起こさないでよとアヤが声をかける。
カオリは大丈夫だからと手を振って応えた。
本当にわかってるのだろうかと疑いの視線を送りながら
アヤは酒の注がれた杯を口に運んだ。

「あそこ。あそこ見てみろよ、絶対あのコだって」
ヤグチが指差す。カオリは顎に手をやりながら目を細めた。
「え〜、どこさ」

「あのゴツイのが立ってるテーブル。そこに座ってるじゃん!」
「どのテーブルよ?」

要領を得ないカオリに苛立ちながら、ヤグチは声を荒げた。

「デカイくせに見えねえのかよ。あそこだよ、あそこ! 例のほら『選ばれし者』!!」

79 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/09(土) 01:44:27 ID:i0O7BPT40
「なんだって!!」
アヤは口に含んだ酒を、おもわず噴き出しそうになった。
勢いよく杯をテーブルに置き、すぐさまふたりに駆け寄る。
「どこ、どこにいんの?」

「だから、あそこだって」

アヤの顔を仰ぎ見ながら、ヤグチは腕を振るようにして何度も少女を指す。

「えっ、あのコ?」アヤの表情が曇った。

ようやく見つけたカオリが、不満の声を漏らす。

「違うっしょ?! だってさ、武器屋の爺さんが言ってたじゃん、十四って。
 あのコ見てよ、どうみたってヤグチより年下に思えないよ」

普通にヤグチと比べて年下に見える十四歳も、なかなかいないだろうが
確かにカオリの言う通り、少女はそれよりもずっと年上に見えた。

暴漢に怯える表情は少女そのものだったが
鼻筋の通った整った顔立ちや、顔を振るたび揺れる金色の髪は
大人びた印象を与えた。男を惑わすのに十分だ。
十四、五歳の少女にはない、色香を持ち合わせている。

80 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/09(土) 01:46:09 ID:i0O7BPT40
「でもさ、よぉく見てよ。ユウキにソックリじゃん、あの目の離れ具合とかさ」
「似てるっちゃ似てる……かなぁ」

それでも納得がいかないといった表情で、アヤは腕組みをした。
カオリも「うーん」と唸りながら、難しい顔をして首をかしげた。

「もう、いい! オイラ聞いてくる」
反応の薄いふたりにヤグチは言い放った。

「ちょ、ちょっと」

止めさようと、アヤはヤグチの肩に腕を伸ばしたが
ヤグチはすでに駆け出しており、その手は空を切った。

「カオリも見てくる」
「アンタまで! …もう、いっつもこれだから」

少女の元に駆け寄るふたりの背中を呆れ顔で眺めながら
アヤは頭をかきむしった。

81 : ◆kjXPuSaNuc :2006/09/09(土) 01:58:33 ID:i0O7BPT40
けっこうレスがついてると思ったらw

>>73
全体的に人が減ったから仕方ないことだけど
数えるほどしか小説がないというのは、寂しいかぎりですね。

>>74
自分にはムリなんで>>75をあたって下さい。

>>75
乙です。

>>76
ありがとうございます。
>ステータス どんな風になってるか気になりますねw
ストーリーはオリジナルです。背景、設定もこれといってベースになるものはないです。

82 :ねぇ、名乗って:2006/09/12(火) 12:11:36 ID:lp9eRfAD0
続き待ってます

83 :ねぇ、名乗って:2006/09/13(水) 04:24:42 ID:GKpKPbyU0
ベタなようで作りこんでたり
作りこんでるようでベタだったり
その辺の加減がおもしろいねw

続きもまったり楽しみにしてます

84 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/15(金) 23:34:22 ID:EIu35MFM0
「なあ、いいだろう。オレたちと一緒に呑もうや」

髭づらの大男は少女に顔を近づけると、酒臭い息を吐きかけながら言った。
少女は視線を合わないように気をつけながら、逃げるように体をよじった。

テーブルをひとつ挟んだ席に、大男と同じような風貌の男がふたり
いやらしい笑みを浮かべながら、その様子を眺めていた。どうやら仲間らしい。

少女は助けを求めるように視線を巡らせたが、どの客もチラッと見やる程度で
まったくと言っていいほど関心を示さない。それぞれテーブルを囲んで談笑している。

「なにも捕って喰おうってんじゃないだ。楽しくやろうって言ってんだよ」

大男は少女の肩に手をやった。少女は顔をゆがめ、なにも言わずにその手を払いのけた。

ヤグチはふたりに近づくと、少女の正面にテーブルを挟んで屈み
テーブルの端に、両手を添えてあごを乗せた。

「ねえねえねえ」

少女がピクリと体を震わせた。辺りを見回し声の主を探す。
そしてヤグチと目が合うと、ほんの少し不安そうに眉を寄せた。
ヤグチは品定めするように、上目遣いで少女の顔を見上げた。

「アンタさぁ、マキってコじゃない? オイラ、ヤグチってんだ」
「なんだ、テメエ」

大男が声を荒げる。が、ヤグチはそれを無視した。

「違わないよね。だってさ、ユウキにそっくりだもん」

85 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/15(金) 23:36:15 ID:EIu35MFM0
「……ユウキに会ったの?」

少女が初めて口を利いた。興味深げにヤグチの顔を覗き込む。
ヤグチは嬉しそうに笑った。

「やっぱりそうだ。アイツら、馬鹿にしやがって。だってさぁ……」

不意にヤグチの体が宙に浮いた。なにがどうなったのかわからず、足をばたつかせる。
視界が店内をぐるりと一周し、鼻先に髭づらのむさ苦しい顔が現れた。
「オレのこと無視しやがって、このガキが!」

大男に襟元を掴まれ、吊り上げられたのだ。ヤグチは負けずに言い返した。

「テメエに用はないんだよ。どっか行けよ!」
「なんだぁ、痛い目に遭いたいのか!」

大男が凄むがヤグチは涼しい顔で、二度三度と体を振り子のように前後に揺らした。
十分に振り幅が大きくなったところで
なにをしてるんだと訝しがる大男の腹に蹴りを入れた。

大男はもんどりうって隣のテーブルに倒れこんだ。
こういった喧嘩や騒動はよくあることなのか
テーブルの客たちは、男が突っ込んでくる寸前に
慣れた手つきで皿をさっと持ち上げた。

が、杯までは手が回らず、大男は頭からもろに酒を浴びた。

86 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/15(金) 23:39:33 ID:EIu35MFM0
「このガキがぁ!!」

怒りに声を震わせ、大男は立ち上がった。
肩をいからせると、ヤグチに向かって猛然と突進してくる。
それをヤグチはさらりとかわし、足を引っ掛けた。
たまらず男は、別のテーブルに頭から突っ込んだ。

「熱ィ熱ィ!」

このテーブルの客も、先ほどと同じように皿を持ち上げ被害を回避していた。
が、熱々のスープにまでは手が回らなかった。いや、あえて取り上げなかったのだ。
スープまみれになった男を指差し、皆で大笑いしている。

「オイラにケンカ売るのは百年早いって!」

目一杯胸を張って言い放つヤグチに、ふたりの男が近づいた。
ひとりは痩せぎすで長身の男、もうひとりはちょっと太目の小男だ。
どちらもあの大男と同じく、顔一杯に髭を生やしている。

「嬢ちゃん、いきがるのもいい加減にしな」

ノッポの方が小さい子供をあやすように、ヤグチの頭に手を置いた。
ヤグチはその手を払いのけると、鋭く睨みつけた。

「おうおう、怖い、怖いねぇ」

ノッポはそう言って意地汚く笑った。
チビの男も肩を小刻みに揺らせ声を殺して笑っている。

87 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/15(金) 23:42:01 ID:EIu35MFM0
「待て!」
大男がゆっくりと立ち上がりながら言った。汚れた顔を手の甲で拭う。
「ソイツを殺るのは、このオレさまだ!」

「まだ懲りてねえのかよ。いいよ、かかってきな!」
軽くステップを踏みながら、ヤグチは手招きした。

大男は舌なめずりをしてにやりと笑うと、腰から蛮刀を抜いた。

客の中からどよめきが起こる。両腕を上げて手を叩く者もいる。
拳を突き上げ、囃し立てている者もいる。
どうやら、この状況を皆で楽しんでいるようだ。

蛮刀を振り上げ、ヤグチに襲い掛かろうとする男の肩を、何者かが叩いた。
男が振り向くと、そこには長い黒髪の瞳の大きな女の顔があった。カオリだ。

まじまじと男の顔を見つめていたカオリだが
ふと口元に笑みを浮かべ小首をかしげた。

「どうしたのぉ。びしょ濡れじゃない。カオリが乾かしてあげる」

だらしなく顔をほころばせる大男の鼻先に
カオリは人差し指を向け、くるりと円を描いてみせる。
男はその指先を眼で追った。

指先が男の口元で止まる。と同時に爪の先から火を吹いた。

88 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/15(金) 23:44:36 ID:EIu35MFM0
「おわ! なんだ、なんだ!」
大男は後ずさりながら慌てて火だるまになった顔を払う。

「ごめ〜ん。熱すぎた?」

カオリはそう言うと、掌を上にして指先を男に向け口元へ添えた。
そして口の中でなにやらつぶやくと、男の顔に息を吹きかけた。
息は白く曇ってブリザードとなり、火を一瞬にして消し止めた。
男は助かったと一息ついた。だが今度は男の顔がみるみるうちに凍りつく。

男は顔を大きく二度三度と振って張り付いた氷を払いのけた。
が、そのまま気を失い、大きな音を立てて床に倒れこんだ。

「この女、なにしやがる!」

ノッポがそう叫んで剣の柄を掴んだ。チビの男も背中の石斧に手をやる。
ヤグチはノッポの顔をチラッと見上げた。
意識がカオリに向いていることを見やると
軽く飛び跳ね、回し蹴りをノッポの下腹部に入れる。
ノッポはそのまま崩れ落ちた。

「あっ、テメエ! …ぐっ!!」
その様子にチビの男が気づく。が、すでに遅い。
ヤグチは椅子を踏み台に飛び上がると、チビの顔面に膝蹴りを決めた。

「すごぉーい! ヤグチがおとなの人の顔に蹴り入れるの、はじめて見たよ」

とカオリが手を叩いて喜ぶ。ヤグチはキッと睨み付けると
「うるさいよ!」と一喝した。

89 : ◆kjXPuSaNuc :2006/09/15(金) 23:54:52 ID:EIu35MFM0
>>82
お待たせしました。

>>83
なにをどう見てそう思ったのか、気になるところですねw
期待を裏切らないよう、頑張ります。

90 :ねぇ、名乗って:2006/09/18(月) 22:43:43 ID:4F7X9byZ0
ここの矢口なんか好きだ
つうかいいトリオだね

91 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/22(金) 23:49:36 ID:QsTY7/Vm0
客から歓声と拍手が沸きあがる。女相手にあっさりとやられた山賊くずれに
罵声や下品な野次を飛ばす者もいる。とにかく、店内は大騒ぎとなった。

胸を張り得意げに歓喜に応えるふたりに、アヤはうつむいたまま大股で近づいた。

「もう、着いた早々こんなに目立ってどうすんの。行くよ」

アヤはヤグチの襟首を引っ張り、カオリの背中を押して店を出ようとした。
それにヤグチが待ったをかける。

「ちょ、ちょっと待ってよ。あのコ、やっぱそうだったよ!」
「えっ?」
「選ばれし者」

ヤグチが囁くように言うと、アヤはその言葉の意味を吟味するように
しばしヤグチの顔をまじまじと見つめた。
そして倒れた椅子を起こそうと屈んでいる少女に視線を移す。

少女はアヤと目が合うと、姿勢を正しおもむろに頭を下げた。

放心したようにその場に立ち尽くしていたアヤだが
ふと我に返ると少女に向かってまっすぐに駆け寄った。

「ア、アナタ、ユウキのお姉さん?」

アヤは少女の肩をしっかりと抱え尋ねた。
少女は怯えるように身を引きながら、コクリとうなずいた。

「ホント? ホントに?」
「そう……ですけど」

上目遣いにアヤを見上げ少女、マキは小さな声で答えた。

92 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/22(金) 23:51:06 ID:QsTY7/Vm0
「なっオイラの言ったとおりだろ」
アヤの背後からヤグチが顔を出した。

「へ〜、アナタがそうなのぉ。見えなぁい」
とカオリもアヤの肩越しにマキを見つめた。

マキは不安そうに体を縮み込ませ、うつむき加減に三人の顔を見回した。

「そんなにビビんないでよ。なにも捕って喰おうってんじゃないんだからさ」
「なんだよヤグチ、さっきのオヤジとおんなじこと言ってんじゃ〜ん!」
「あっ、ホントだ。キャハハ!」

そう笑いあうヤグチとカオリを、マキはなにが可笑しいのだろうかと小首を傾げた。

「とにかく、ここじゃ話もできないから出よう」

アヤがそう言って少女の肩を抱き寄せた。
先ほどの騒動でかなりの注目を浴びている。
込み入った話のできる雰囲気ではなかった。

「あっ、でもぉ……」

名残惜しそうにテーブルを振り返るマキを、アヤは構わず入り口へと導いた。
カウンターに差し掛かったところで、先ほどの店員に声をかける。

「いくら?」

店員の提示した金額よりも、かなり多い金貨を「迷惑料だから」とカウンターに置く。
そして、そのまま店を出ようとしたその時、入り口の扉が開いた。

93 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/22(金) 23:52:09 ID:QsTY7/Vm0
現れたのは、ふたり連れの女だった。
片方はアヤのような女剣士で、もう一方は白いマントを羽織っている。
ユウキの語っていた風貌にあう、ふたりの女。
アヤの表情に緊張が走った。

店に入るなり、ふたりはぐるりと店内を見回した。
マキのところで視線が止まる。

「マキ! ちょっと、そんなところでなにしてんのよ」

マント姿の女が声を上げた。女剣士は鋭い視線でアヤらとマキの顔を交互に見比べている。
マキに近づこうとするマントの女の顔を、ヤグチが指差した。

「あっ! 鬼瓦!!」

女はヤグチを睨みつけた。「はぁ!?」

マキの口元に笑みが浮かんだ。
女剣士は顔をそらしてうつむいた。肩が小刻みに震えてる。

「マキ、なに笑ってんのよ! サヤカ、アンタまで!!」

「ごめん。ごめんよ、ケイちゃん」
サヤカと呼ばれた女剣士は、咳払いをすると真顔に戻ってヤグチを睨みつけた。
「アンタたち、ウチらの連れになんの用」

「アンタらには関係ない。さっ、行こ」
そう言ってヤグチはマキの手を引いた。

94 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/22(金) 23:53:29 ID:QsTY7/Vm0
「待ちな!」サヤカは声を荒げた。「マキ、こっちおいで」

あごでしゃくってみせるサヤカに、ヤグチが立ちはだかるようにマキの前に出た。

「テメエには関係ないって言ってんだろ」
「はぁ? そのコはウチらの連れだって言ってるでしょ。コイツ、訳わかんない」

サヤカは馬鹿にしたように頭の上で人差し指を回し、ケイに笑いかけた。

「連れとかいってさ、カオリ知ってんだかんね。
 アンタたち、このコを無理やり連れ出したんでしょ」

カオリの言葉に、ふたりの顔色が変わった。探るような視線をアヤらに送る。
ケイが口を開いた。

「アンタたちね、なにを知っているのかわかんないけど
 そのコは納得した上でウチらに付いてきてるんだよ。
 変な詮索はやめてもらいたいね」

「どうだか」ヤグチはふんと鼻で笑った。
「そういう話は本人から聞くから。そこどいて」

だがサヤカは入り口の前に立ったまま動こうとしない。
「どけよ!」
ヤグチが声を荒げると、サヤカは姿勢を低くして腰の剣に手をかけた。

95 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/22(金) 23:55:11 ID:QsTY7/Vm0
「サヤカ!」
たしなめるようにケイが言った。

「ケイちゃんは黙ってて。…どうしてもってんなら、アタシを倒していきな!!」
「なに、オイラとやろうってぇの?」

ヤグチは笑みを浮かべた。腰を落として臨戦態勢に入る。

「まあ、まあ、まあ、まあ」アヤがふたりの間に割ってはいった。
「ふたりとも熱くならないで。初対面でいがみ合うことないでしょ、仲良くしようよ。
 ほら、よく言うじゃん、袖振り合うも他生の縁ってさ。
 あと、旅は道連れ世は情けとか、旅の恥は掻き捨てとか、それから…」

「ごちゃごちゃ、うるさいよ! やる気のないヤツは引っ込んでな」
「そうだよ、これはオイラとコイツの問題なんだからさ、アヤはあっち行ってて」

アヤはむっとしてヤグチを睨みつけた。
「あのねぇ、アンタはそうやって、いつもいつもトラブル起こすんだから
 ちょっとは自重しなさい。私がどんだけ苦労してると思ってんの」
「だってさぁ」
「だってじゃないの! 少しぐらい私の言うこと聞きなさい」

不服そうに口を尖らせるヤグチを一喝すると、サヤカに向き直り
「アナタもね、そんなにケンカ腰にならないで。
 別にウチら、アナタの連れをどうこうしようって訳じゃないの。
 ちょっと、話を訊きたいだけなのよ。ねっ、わかるでしょ」

柔らかい口調でそう言ったが、サヤカは態度を軟化させなかった。
柄を握りなおし半身に構えると、挑発するように言った。

「話がしたいなら、力ずくで連れてけって言ってんだろうが!
 腰にさげてる剣は飾りじゃないんだろ。さあ、抜けよ!!」

96 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/22(金) 23:56:54 ID:QsTY7/Vm0
「なんでそうなるのかな…」
アヤは顔をしかめて頭をかきむしった。

「ほらぁ、話してわかる相手じゃないんだって!」
「そうだよ、ヤグチの言うとおりだよ。やっちゃえばいいじゃん」
「もう、アンタたちは黙っててって!」

騒ぎ立てるふたりをたしなめると、アヤはひとつため息をついた。

「しょうがないなぁ…」

どうあっても、このままでは収まりがつかないらしい。
アヤは覚悟を決めた。
ならず者がたむろするこんな場所で剣を抜きたくはなかったが
生半可なことで勝負できる相手でないことはわかっていた。

「私が相手するから、アンタたちは手を出さないで」
と言いながら、ゆっくりと手を腰の剣へとやる。

「うん、わかった」
ヤグチはそう応えたが、むろん傍観するつもりはなく
カオリに目で合図をするとアヤを中心にふたりして左右に展開し
サヤカを取り囲むようにして身構える。

「そうこなくっちゃ」

乾いた唇を舌で湿らせると、サヤカはギラついた視線を順に三人に巡らせ
慎重に摺り足で、アヤとの間合いをつめた。

97 : ◆kjXPuSaNuc :2006/09/22(金) 23:58:58 ID:QsTY7/Vm0
>>90
ありがとうございます。

当時の矢口は、かなり口が悪い印象があったので、こうなりました。
今後、調整型の矢口にどうやってもっていくか、それが難問ですw

98 :ねぇ、名乗って:2006/09/26(火) 00:22:28 ID:3gz91hYy0
鬼瓦登場www

99 : ◆AvluhZaSuE :2006/09/29(金) 01:28:00 ID:hgy47+Qu0
>>97
更新お疲れ様です!毎週楽しく読ませてもらってます。
血の気の多い連中ですねww
矢口のキャラもイメージ通りでいい感じですw
続き待ってます!

もし良かったら、オレのいるスレにも遊びに来てみて下さいね☆
れいな処女スレは、オレ以外にも作者さんいっぱいいるんで面白いかもですよ♪


100 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/29(金) 23:42:24 ID:9mOtqvkH0
店内は静まり返っていた。視線がアヤらに集中する。
ピンと張り詰めた緊張感が息苦しい。
先ほどの山賊崩れ相手のような
単なるケンカでは済まないことを皆が感じていた。
成り行きを固唾を呑んで見守っている。

ヤグチはサヤカの左に回りこみながら、カオリに目配せした。
そしてサヤカの背後をあごでしゃくってみせた。

カオリはその方向をちらりと見た。
ケイが壁にもたれ、険しい表情で状況を見守っている。
今のところ、自らが戦闘に加わるつもりはないようだ。
とはいえ、白いマントの下に杖がちらりと覗いていた。

杖を使えば魔法陣を描くことなく、瞬時に魔力を高め魔法を使うことができる。
どの程度の実力の持ち主かはわからないが、油断はできない。
カオリはケイを牽制しながら、サヤカの右側へと回り込んだ。

アヤはそんなふたりの動きを背中で察知していたが
あえて無視し、神経をサヤカに集中した。
勝敗は一撃で決まる。カオリとヤグチに出番はない。
そんな予感がしていた。

本来、剣に十分な力を込めるには、抜いてからしばらくの時間が必要だ。
が、なにも相手を殺すわけではない。一瞬の光があればダメージを与えることができる。

問題は相手の持つ剣、ロングソードだ。アヤよりも半歩、間合いが長い。
初顔合わせで敵がどう打ってくるかわからない中、その半歩が詰められるかどうか。

101 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/29(金) 23:44:31 ID:9mOtqvkH0
一方、サヤカもアヤの狙いは十分読んでいた。
長い剣は先に打てる分、有利だといえたが
一撃で倒さなければ、間違いなく相手は懐に飛び込んでくるだろう。
そうなれば勝ち目はない。

相手は時折隙を見せる。しかし、それは誘いだ。
ここに打って来い、それをかわして逆に打ち込んでやる、と。

いっそのこと相手の間合いに入ってやろうか──サヤカは思う。
手傷を負うのは確実だが、相手に大きな隙を作らせれば
次の一撃で致命傷を与えられる。

サヤカは試しにほんの少しだけ距離を詰めた。が、アヤの手はピクリとも動かない。
ならばと、さらににじり寄る。完全にアヤの間合いだ。それでも打ってこない。
これ以上近づくのは危ない。打ち込まれた際に、自分の間合いまで戻れなくなる。

攻防はわずか半歩の間合いの中で繰り広げられた。
お互い、相手に先に打ち込ませたい。が、共に打ってくる気配は見せない。

サヤカは相手にもう少し大きな隙があれば先攻してもいいと考えるが
アヤとしてはこれ以上隙を見せるのは、剣筋が読めず危険だ。

アヤはあと少し──半歩とはいわない、その半分でいい──間合いが詰まれば
打ち込んでやろうと思うのだが、サヤカは警戒して決してそこまで踏み込まない。

膠着状態が続く。時間だけが静かに流れた。

「なにしてる。早くやれ!」

客の中から野次が飛ぶ。一瞬、緊張の糸が切れる。
その客は椅子を蹴り飛ばされ姿が見えなくなったかとおもうと
周りの客から無言のままタコ殴りされた。

102 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/29(金) 23:46:14 ID:9mOtqvkH0
店内に静寂が戻った。だが、一度途切れた緊張感は、元に戻らない。

先に焦れたのはサヤカだった。間合いを一気に詰める。

今がチャンス! と、アヤは剣を握る手に力を込めた。
髪が静電気を帯びたように、ふわりと浮き上がる。

ところが次の瞬間、アヤは金縛りにあったかのように体が動かなくなった。
ふと左を向くと、そこには白マントの女、ケイの顔があった。
さらに視線を落とすと、剣の柄頭をしっかりと抑えられている。

──いつの間に──まったく気配は感じられなかった。
いかにサヤカに神経を集中させていたとはいえ、彼女の姿は視界の中にあった。
それに一気に詰められる距離にはいなかったはずだ。
アヤにとって、初めての体験だった。彼女は戦慄した。

ケイの行動は味方であるはずのサヤカにとっても意外だったらしく
あっけにとられた表情を見せていた。が、我に返るとすばやく剣を抜いた。

が、ケイが杖をサヤカの鼻先に突きつけ、それを制止した。
彼女もまた、動けなくなった。

「カオリ、ストップ!」

反撃しようと魔法陣を切りかけたカオリに、アヤが待ったをかけた。
最高潮までに高まったカオリの魔力が、ゆっくりと静かに収まっていく。

103 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/29(金) 23:49:14 ID:9mOtqvkH0
ケイがアヤの耳元で囁いた。

「そんな物騒なもの、こんなところで見せたくはないでしょ」

鞘からわずかに覗いた剣身が、ほのかな光りを放っている。
だがアヤは力を抜かない。強い視線をサヤカに送った。
ケイもちらりとサヤカを見やる。

「サヤカ!」

強い口調でケイが言うと、サヤカは突きつけられた杖先から一歩退き、剣を収めた。
アヤも剣を持つ手を緩めた。ケイが柄から手を離すのを確認して一歩下がる。

「さてと」杖をマントの中に戻し、ケイはアヤらの顔を見回した。
「ごめんなさいね、ウチのが血の気が多くてさ。アタシも苦労してんのよ」

と親指を立てて背後に立つサヤカをさす。
いつもカオリやヤグチに振り回されているアヤは、そうなのよね、と相槌を打った。
当のサヤカは不機嫌な顔つきでそっぽを向いた。

「アンタらがそのコと話をしたいんなら別にかまわないんだけどさ。
 今日は勘弁してよ。ウチら、今から大事な用があんのよ」

「はあ? なんだよそれ。そっちからケンカ売っといて
 負けそうになったら止めに入って、挙句の果てに
 そんな勝手な言い分が通用すると思ってるのかよ!」

ヤグチがまくし立てる。「負けそうになった」に反応したサヤカが
前のめりになってなにか言おうとしたが、その前にケイが口を開いた。

「そうカリカリしないでよ。アンタたち、しばらくこの街にいるんでしょ。
 ウチら逃げも隠れもしないから。話がしたいなら、いつでも言ってよ」

104 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/29(金) 23:51:17 ID:9mOtqvkH0
「どこに行けば会えるのよ。その…マキちゃんに」

アヤがそう尋ねると、ケイは「そうね」と宙に視線を巡らせた。

「昼間はたいてい大聖堂にいるかな。膨大な量の古文書が蔵書されていてね。
 ウチら、そこで研究しているのよ」

「研究だってさ」

ヤグチがはき捨てるように言うと、カオリは首をすくめて見せた。
互いに目的はわかっていそうなものなのに、研究も何もないだろう。

「そういうことだからね、今日のところは譲ってもらうよ。
 マキ! おいで」

マキは一瞬、驚いたような顔になり、あたりを見回し逡巡していたが
「早く!」とサヤカに促されると、足早に彼女らの元に向かった。

「ちょっと、待って!」

引きとめようとするカオリを、アヤは遮った。

「いいの? 行かせて」

憤った口調で店を出ようとする三人を指差すカオリに、アヤは静かに答えた。

「いい。最低限の目的は果たしたから」

店はいつの間にか、いつもの喧騒に戻っていた。
大立ち回りが見られなくて不満を漏らす客もいたが
多くはいい勝負を見せてもらったと、満足げに酒をあおっていた。

105 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/09/29(金) 23:57:33 ID:9mOtqvkH0
>>98
今回は鬼瓦、大活躍の巻ですw

>>99
まあモンスターハンターなんて家業、やさしいだけじゃ勤まらないですw
>れいな処女スレ
ちらほら覗かせてもらってますよw
むこうも頑張ってください。

106 :ねぇ、名乗って:2006/10/03(火) 00:36:14 ID:pgISQrMt0

緊迫感あってよかったよ
3回読み直してやっと理解できたけどw


107 :ねぇ、名乗って:2006/10/04(水) 20:14:21 ID:4EQFjd1O0
>>106はなにをそんなに理解できなかったのかw
>作者
がんばれ!

108 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/06(金) 23:39:47 ID:GFL1ny/a0
サヤカは窓際のベッドに足を投げ出して座り、外を眺めていた。
月明かりに照らされた大小さまざまな屋根が連なり
その奥にひときわ大きな建物が鎮座していた。

この街でもっとも大きな建造物、大聖堂だ。

サヤカはこの窓から見える風景が大好きで、先の住人であった盗賊団に
丁重にお願いして屋敷を譲り受けた──あくまでも、丁重にお願いして、だ。
もっとも、その盗賊団はその直後に逃げるようにして街から姿を消したが。

暖炉のそばでは、ケイが杖を左脇に抱え短剣で印をつけている。
マキは椅子の上に膝を抱えて座り、惚けたような表情で、時折ため息をついた。

「アンタどうしたの。さっきからため息ばっかりついてさ」

ケイが尋ねる。マキは頭を傾げながら顔をケイに向け、だるそうに言った。

「うーん。…おなか空いた」

「さっき食べたばっかでしょ。もうおなか空いたの?」

「食べてないよ。ずーっとガマンしてるんだから」

「はあ? アンタ、ウチらよりずっと前に酒場に行ってたじゃん。
 なんで食べてないの」

「注文する前に変なヤツにからまれたんだよ」

「変なヤツって、あの三人組?」

ケイの言葉に、それまで会話に関心を示さなかったサヤカがふと顔を向けた。

109 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/06(金) 23:41:34 ID:GFL1ny/a0
「違うよ。毛むくじゃらの大男。あの三人は助けてくれたの」

椅子を前後に揺らしながらマキは答えた。空腹が相当こたえているようで、声に力がない。

「ケイちゃん」サヤカはベッドから足を下ろし、真剣な眼差しでケイを見つめた。
「あの三人組、どう思う?」

「そうだねぇ」ケイは杖についた木屑を払うと、暖炉にかざして印を確認した。
「ちょっと前にさ、噂あったでしょ、オリハルコンのクイーンソードが見つかったって。
 おそらく、あれがそうだと思うんだよね」

「やっぱり」サヤカは視線をそらしながら舌打ちした。

「サヤカはどう思うのさ。実際に対峙してみてさ
 あの女がクイーンソードの使い手だと感じた?」

印の出来栄えに満足したようで、ケイは一、二度うなずくと
杖を壁に立てかけ、体をサヤカに向けた。

「感じた」

サヤカは言葉少なに答えた。脳裏にあの時のことが蘇る。
あの女が剣を抜きかけた、その刹那、サヤカは言いようのない感情に襲われた。

サヤカ自身に魔力はなく、それを察知することもできない。
だが本能が警告を発していた。

──あれは恐怖だ。今まで感じたことのない、真の恐怖だ──

その思いを振り払うかのように、わざと陽気に振舞った。

110 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/06(金) 23:43:02 ID:GFL1ny/a0
「でもさ、さすがはケイちゃんだよね。完璧に存在を消してた。
 あん時さ、アタシぜんぜん気づかなかったもん」

「なにそれ。まるでアタシが存在感ないみたいな言い方じゃん」

頬を膨らませるケイに、サヤカはそういう意味じゃないよと微笑みかけた。
ケイも表情を緩める。

「まあ、あれは止めに入っただけだからね。ちょっとでも殺気があったら
 すぐに気づかれたと思うよ。どっちにしても、次はああはいかない」

「あの黒マントのノッポは? けっこうなやり手?」

「う〜ん、やり手かどうかはともかく、ありゃ相当ヤバイね」

ケイは消え入りそうになる暖炉に目をやり、薪をくべながら続けた。

「なにをやるつもりだったかはわからないけど、店ん中であんなデカイ魔力使ったら
 ただじゃ済まなかったろうね。よくて死人の数、二桁。
 ヘタしたら自分たちの命だって危なかっただろうよ。ホント、なに考えてんだか」

「ふーん、ヤバかったんだ」

「ヤバイっても、後先考えない行動がってことだよ」

「わかってるって」

サヤカは軽く手を上げて応えた。揺らめく暖炉の炎を漫然と見つめ、思案する。
ああは言っているものの、ケイが黒マントを高く評価しているのは確かだ。
でなければ、新しい魔法陣を杖に刻んだりしない。

111 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/06(金) 23:44:42 ID:GFL1ny/a0
思い起こせば、ケイの動きにいち早く気づいたのは彼女だった。
相手の腰の剣に手を掛けた時には、すでにかなりの魔力が高められていた。
それも杖なしで、だ。

「ふ〜ぅ……」

大きなため息が聞こえ、サヤカの思考を邪魔した。
「マキ!」冷ややかな視線で睨みつける。

「だってぇ」マキはだらしなく口を開き、両肩をだらりと落とした。
「おなか空いたんだもん……しょうがないじゃん」

「もう……ケイちゃん、なんか食べさせてやってよ。うるさくってしょうがない」

「しかたないなぁ。明日食べようと思って買っといたパンとベーコンがあるから
 焼いて食べなよ」

ケイが言うと、マキはとびっきりの笑顔を作って台所へと駆け出した。
その姿を見ながら二人は顔を見合わせ苦笑いを浮かべた。

「あとさ、あのちっちゃいのはどうなんだろ。サヤカ、どう思う?」
「さあ。やたらと威勢だけはよかったけど」
「そうね、サヤカと一緒」
「なっ! アタシの場合はね、ちゃんと実力が伴ってるんだからね!!」

サヤカが声を荒げると、台所からフライパン片手にマキが顔を出した。

「あの人が助けてくれたんだよ。あのね、三人の大男をあっという間にのしちゃった。
 …二人も食べる?」

フライパンを傾けベーコンを見せるマキに、二人は首を横に振った。
サヤカがあっち行けとばかりに手を振ると、マキは台所に姿を消した。

112 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/06(金) 23:46:40 ID:GFL1ny/a0
「でも実際、見てみたいもんだね」

口元に手を当て呟くように言うサヤカに、ケイは尋ねた。

「なにを?」
「クイーンソード」
「ああ、抜いたところをか。…確かにそうね」

二人は黙り込んでしまった。
あの時、ケイが止めに入らなければ見られたかもしれない。
しかし、そうすれば今ここで無事に話ができる状態だったかどうか。

剣を抜いているところは見たい。
が、その矛先は自分たちに向くのはごめんこうむりたい。
現在、この街にクイーンソードを必要とするほどのつわものがいるかどうか。
おそらく、サヤカたちよりほかに存在しないだろう。

「最悪『アイツ』をぶつけるしかないか」

「『アイツ』かぁ…」ケイは頭の後ろで手を組み、体を反らせた。
「でも、それって確信にかなり近づくことになるんだよ。ヤバくないかい?」

サヤカはちらりと部屋の隅へと目をやった。そこには大きな袋が置いてある。

「大丈夫。アイツらがどこまで知ってるのかはわかんないけど
 ウチらにはあれがあるんだから」

「そうね」ケイは体を戻すとサヤカと同じように袋を見つめた。
「でも、それまでにやらなくちゃならないことがあるけどね」

113 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/06(金) 23:48:22 ID:GFL1ny/a0
両手一杯に皿を持ってマキが現れた。
小さなテーブルに並べると、「ミルク、ミルク」と跳ねるようにして台所に戻る。
その料理の量に、どれだけ食うんだとサヤカが目を丸くしていると
ケイが突然声をあげた。

「ちょっと、これ! どういうこと!!」
「どした?」

とサヤカはケイの顔を見た。ケイは険しい表情でゆっくりとサヤカに顔を向けた。
それを見て、サヤカは酒場でヤグチが言った「鬼瓦」という言葉を、ふと思い出した。

「これ、買いだめしておいた食料全部だよ!」
「えーっ!」

サヤカは思わず腰を浮かせた。テーブルに並んだ料理に、目が釘付けになる。

ミルクをひと口啜りながらマキが席に着いた。
料理を凝視する二人に、涼しい顔で尋ねる。

「どうしたの?」

サヤカは中腰のまま動くことができなかった。
ケイが顔を手で覆い、イスに倒れこむようにして腰掛ける。

「もう、どうすんのよ明日の食事…」

二人の様子から、マキはただならぬ空気を感じていた。
それは酒場で三人組にサヤカが対峙した際の殺気に近かった。
自分から一番遠くの皿を引き寄せ、身を低くして構える。
そして二人の顔を上目遣いでうかがい、つぶやくように言った。

「……あげないよ?」

114 : ◆kjXPuSaNuc :2006/10/06(金) 23:58:41 ID:GFL1ny/a0
前回、age忘れた上に名前欄をミスってしまいました…
実は今回もちょっとしたミスがあったんですが、なんとか修正します。

>>106
凝った表現や美しい文章よりも、読み易さを第一に考えている自分としては
痛恨の極みですね。反省です。

>>107
すんなり理解してくれる人もいて安心しましたw

今後の参考にもしたいので、批評や厳しい意見も大歓迎です。
よろしくお願いします。

115 :ねぇ、名乗って:2006/10/13(金) 22:04:55 ID:z7z+/7+l0
wktk待ち。

116 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/14(土) 01:09:14 ID:DDHe4qaw0
「ごちそうさま」

マキはそう言うと、満足そうに膨らんだお腹をさすった。
ベッドの上ではサヤカがふて寝していた。
ケイはイスを後ろ前にして座り、背もたれに肘を着いて顔を乗せ
「…だから明日の分って言ったじゃん」とまるで呪文のように繰り返している。

「あのさぁ」

マキが口を開いた。
ベッドに横たわったままサヤカは「んん!?」と不機嫌な声を上げる。
一瞬、躊躇したマキだが、意を決し続けた。

「訊きたいことがあるんだけど……クイーンソードってなに?」

あまりにも常識はずれの質問に、サヤカはベッドから跳ね起きた。
ケイも顔を上げ驚きの表情を見せる。二人は声を揃えた。

「はぁ!?」

予想もしなかった激しい反応に、マキはそんなに変なことを言ったかなと
うつむき加減に二人の顔を見上げた。

「なに言っての。アンタ『選ばれし者』なんでしょ?」

ケイが尋ねると、マキはうなずいて返した。
ベッドから身を乗り出しサヤカが訊いた。

「テラでさ、聞かなかったの? オリハルコンの剣とか、クイーンソードとか
 あとキングソードとか」

117 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/14(土) 01:10:32 ID:DDHe4qaw0
「どうだろ…」小首をかしげ、記憶の糸をたどるように視線をくゆらせる。
「オリハルコンは聞いたことあるけど」

そもそも、テラ合宿に参加したのは「選ばれし者」になりたかったのではなく
町を脅かす魔物に対抗するため、剣の修行や魔法の知識を増やしたいからだった。
学問に興味はなく、講義の際はほとんど居眠りしていたのだと、マキは答えた。

サヤカは大きなため息をついた。

「キングソードを知らなくて、今までウチらがなにをしてたと思ってたんだよ。
 ケイちゃん、教えたげて」

ケイはうなずくと椅子を引きずってマキに近づいた。

「あのね、勇者の伝説は知ってるでしょ?」
「うん。あれでしょ、伝説の剣を使って『悪しき者』を倒したってやつ」
「そう。その伝説の剣ってのがオリハルコンの剣なわけ」

それぐらいは知ってるよと、マキは頬を膨らませた。
自分が訊いているのはオリハルコンではなく、クイーンソードなのだと。

「じゃあさ、オリハルコンってなに? 知ってる?」

単に伝説の剣の名前だと思っていたマキは、改めて尋ねられ首をかしげた。
そんなことは考えたこともなかった。ケイが説明を始める。

「あのね、オリハルコンっていうのは、鉱物の一種なのよ。
 その一番の特徴がさ、魔力を吸収できるってトコなの。
 ほら、魔法の矢ってあるでしょ。炎の矢とか氷の矢とかさ。
 あれにはね、極々少量だけどオリハルコンが含まれているのさ」

118 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/14(土) 01:12:30 ID:DDHe4qaw0
そうなんだと、マキは口元を尖らせうなずいた。

「魔法の矢ってどうやって作るか知ってる? 
 その、オリハルコンを含んだ矢じりにね、魔法陣、つまり印を刻むわけさ。
 炎の矢なら炎の、氷の矢だったら氷の、ね。
 それで、その後は放っておくの。なにもしなくていいんだよ。
 そうだなぁ半年くらい寝かせておけば、印に対応した魔力がつく」

「半年も?!」

「まあ、含まれてるオリハルコンがほんの少しだからね。時間掛かるわけよ。
 剣の場合は100%オリハルコンで作るから、そうね、半日もあれば十分」

「剣に印を刻むの? 杖みたいに」とマキは指先で円を描いた。

「うーん、それでもいいんだけどね。もったいないから、普通はしないよ。
 だって、一本のオリハルコンの剣を作るのに
 魔法の矢千本、いや一万本あっても足りないぐらいだから。
 印なんて刻んだら、その魔法でしか使えなくなっちゃうでしょ。
 テーブルとかに魔法陣を描いて、その上に置いておくんだよ」

「ふーん」

「でさ、アンタ今『杖みたいに』って言ったでしょ。
 でも杖とは決定的な違いがあんのよ、それも二つ。
 一つ目、杖はいくら印を刻んでも、その魔法を使える人間じゃなきゃ意味がない。
 でもオリハルコンの場合は、まったく魔力のない人でもその魔法を使える」

「えっ、それって凄いじゃん!」
思わず身を乗り出したマキだったが、ふと冷静になると
「そっか、魔法の矢ってフツーに魔法の使えない人が持ってるもんね」

119 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/14(土) 01:14:05 ID:DDHe4qaw0
「そういうこと。で、二つ目が何度でも使える杖と違って
 オリハルコンは一度使うと魔力がなくなっちゃうの。
 再度使おうと思ったら、一から魔力を貯めなくちゃならないのよ。
 オリハルコンオンリーの剣なら半日、矢なら半年、ね」

「そっ。だから矢の場合は直接、印を刻んじゃうんだよ」サヤカが補足する。
「矢ってさ、打っちゃったらどっか行ってなくなっちゃうじゃん。
 だから印を刻んでおけば、その間にも魔力が貯まるんだよ。
 そうすれば、誰かが見つけて拾ったとしても、半年以上経っていれば
 すぐに魔法の矢として使える」

そこまで言って、サヤカはケイに体をむけベッドの上を激しく叩いた。

「オリハルコンの剣といえばさ、あれ凄かったよね。
 ほら、どこだっけ? 大きな祭りでさ、最後の日に!
 ケイちゃん、覚えてない?」

ケイはしばらく考え込んでいたが、大きく口を開けるとサヤカに人差し指を突き出した。

「ああ、あれね。祭りのクライマックスに、司祭が壇上にあがって
 オリハルコンの剣を空に向かって突き出す!」
「そうそう! すると雷鳴が轟いて、祭壇の大きな燭台に聖火が燈るんだよ!」
「凄かったよね。もう、大盛り上がりでさぁ。そうだ、あん時だよ。
 アンタ、酔っ払ってさぁ……」

昔話に興じ懐かしむ二人に、マキが両手を広げてストップをかける。

「ちょっと待って! 祭りにオリハルコンの剣が出てくるの!? 伝説の剣なのに?」

120 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/14(土) 01:15:20 ID:DDHe4qaw0
「ああ…」そういえばまだ言ってなかった、今その話をしてたんだとケイは膝を打った。
「確かに勇者が生きていたころの時代なら、伝説の剣かもしれないけど
 今じゃね、技術も進んでオリハルコンの精錬もそれほど難しくない。
 勇者の剣として祭ってるトコも少なくないし
 聖都の近衛兵は皇帝から直々に授かるオリハルコンの剣を誇りとしている」

「なぁんだ、伝説でもなんでもないじゃん」

マキは落胆の色を見せた。が、ケイはこれからが本題だと椅子ごとマキに近づいた。
「だから、キングソードなんだって」

マキは顔を上げた。ようやく本題に入ったようだ。

「そもそもオリハルコンの剣ってのは、さっきも言ったように一度使うと半日は使えない。
 その上、普通の剣として振り回すには重すぎて使い勝手が悪い。
 じゃ、なんでそんなものを勇者が携えていたか。
 実は一般にはあまり知られていないけど、勇者が持っていたのは
 ただのオリハルコンの剣じゃなかったのよ」

「それが…キングソード?」
マキが尋ねると、ケイは力強くうなづいた。

「賢者の石って知ってるでしょ。魔力を秘めた秘石、賢者の石。
 あれってオリハルコンのことなのよ、それも最初っから魔力を宿した特別な。
 それで作った剣、なかでも勇者が持っていたと言われるのがキングソード
 そこまで強力な魔力を宿していないものをクイーンソードって呼ぶのよ」

121 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/14(土) 01:17:17 ID:DDHe4qaw0
「ふーん。それでどう違うの、フツーのオリハルコンと?」

それくらい今の説明で理解しろと、苛立ちげにケイは続けた。

「だからさ、最初っから魔力があるわけだから、わざわざ貯めたりしなくていいのよ。
 しかも何度でも使えるの。それもまったく魔力を持たない人間でも」

「あとさ、キングソードやクイーンソードは扱う者を選ぶっていうよね」

サヤカが言うと、マキは顔を向けた。
「選ぶの、剣が?」

「そう。だから誰にでも持てるってもんじゃないんだよ」

「ふーん…」
なんだか、わかったようなわからないような話だと、マキは首をかしげた。

「大丈夫? ちゃんと理解してる?」
ケイが訊くと、マキは激しく首を振ってうなだれた。
「うーん、頭痛い」

説明し甲斐のないヤツだと、ケイは肩を落とした。
その様子がよほど可笑しいのか、サヤカは口元に笑みを浮かべながら
ベッドから飛び降りた。

「まあまあ、そういっぺんに聞いたんじゃ整理つかないよ。
 ちょっとづつ覚えていけばいいっしょ。なっ! マキ」

122 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/10/14(土) 01:18:20 ID:DDHe4qaw0
サヤカの言葉に、マキはうなだれたまま黙って二度三度うなずいて返した。
面白くないのはケイだ。頬を膨らませサヤカを指差した。

「説明しろって言ったのサヤカでしょ。だから一所懸命教えたのにさぁ」
「でもまあ、多少は頭に入ってるだろうし、明日からの調べ物ははかどるかもよ」
「どうだか」

ケイはつぶやくと目を細め横目でマキを睨みつけた。
当の本人は両手をだらりと下ろし頭をがっくりと落としたまま動こうとしない。

「大丈夫だって。なっ!」

そう言ってサヤカはマキの肩を抱いた。が、頭を上下に揺らすだけで反応がない。

「マキ?」サヤカはマキの顔を覗き込んだ。そしてゆっくりと顔を上げる。
その瞳は大きく見開かれていた。

「どうしたの?」

眉を寄せケイが尋ねる。サヤカは息をつくと、大きくかぶりを振った。

「このコ、寝てるよ」

123 : ◆kjXPuSaNuc :2006/10/14(土) 01:21:49 ID:DDHe4qaw0
>>115
ありがとうございます。

124 :ねぇ、名乗って:2006/10/20(金) 03:23:55 ID:Os8VWMxG0
良スレage

オリハルコンのくだりは、どこかで聞いたような聞いてないようなw
でも面白いからおk

125 :ねぇ、名乗って:2006/10/28(土) 23:18:59 ID:1F1zfP5C0
待ってるよぉ☆

126 :ねぇ、名乗って:2006/11/11(土) 20:08:30 ID:KdxsLENe0
hozening

127 :ねぇ、名乗って:2006/11/21(火) 01:16:19 ID:bLgBDVWA0
hozening too

128 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/01(金) 02:55:25 ID:1U5PTH3O0
 ── 第二章 伝説の魔剣 ──

129 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/01(金) 02:56:52 ID:1U5PTH3O0
アヤたちが大聖堂にたどり着いたのは、翌日の昼過ぎになってからだった。

天に届かんばかりに突き出た三本の尖塔を目前にし
ヤグチは路面にへたり込みながらため息をついた。

「やっとだよ…」

酒場を出た後、店員に言われたように、ひたすら南へ向かうつもりだったのだが
三度、曲がった段階で自分たちがどっちを向いているのか、わからなくなってしまった。

日が昇れば見つけやすくなるだろうと、その夜はあきらめ
手ごろな空き家を見つけて一夜の宿とした。
少しでも早くたどり着きたい思いから、眠い目をこすりながらも
朝早くから街に繰り出したのだが、これがなかなか見つからない。

いや、正確に言うとすぐに見つかることは見つかったのだ。
大通りに出るとひときわ大きな建物が目に入った。
太陽との位置関係からして、南にあることは確かだ。大聖堂に間違いない。
ところが、どうしたことか、行けども行けどもたどり着けない。

曲がりくねった道を進むうちに方向を見失い、大通りに出て確認する。
そんなことを繰り返すうち、とうとう午後になってしまった。

後で聞いた話だと、大聖堂は街が攻められた際、最後の要害になるらしく
そのため容易にたどり着けないようになっているらしい。

130 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/01(金) 02:59:42 ID:1U5PTH3O0
「さっ、行こうか」

アヤは大きな広場を挟んで大聖堂の対面にある、古ぼけた屋敷に足を向けた。
看板に文字は書かれていないが、円形の盾にクロスした剣が二本、描かれており
酒場で聞いた武器屋に違いなかった。

「その前にさぁ、なんか喰おうよ。オイラ、もう一歩も歩けない」

「そんなこと言ってもなぁ」

腕組みをしてアヤは辺りを見回した。
ここまでの道中、食べ物を扱っているような店は一軒もなかった。
そもそも、ほとんど人影すら見かけない。昨夜の喧騒が嘘のようだ。

「あのさ、カオリ思うんだけど、武器屋さん行って店の人に聞けばいいんじゃない」

カオリが言うと、ヤグチは「それもそうか」とゆっくりと腰を上げ
いったん膝に手をやって一息つき、気合を入れて姿勢を正した。
そしておぼつかない足取りで店へと向かう。

「大丈夫かな、あのコ」

首をひねりながら、アヤは後を追った。
カオリは無言でまばたきを繰り返し、それに続いた。

131 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/01(金) 03:01:46 ID:1U5PTH3O0
「ちわーす! …あれ? 誰もいないや」

最後の気力を振り絞り、勢いよく扉を開いたヤグチだが
見渡せど店内に人影はなかった。

「おーい、誰かぁ」

声を掛けてみたものの、まったく人の気配は感じられなかった。
奥に設置されたカウンターに駆け寄る。飛び乗って中を覗いたが、やはり誰もいない。
盾や剣、杖に弓矢と、壁一面に隙間なく飾られており、出入り口以外に扉はなかった。
つまりは、留守ということに他ならない。

「どうしたの」

入り口からアヤが顔を出した。そしてヤグチと同じように店内を見渡すと、眉を寄せた。

「留守? なに無用心だね」

山間の小さな村ならいざ知らず大きな街の、しかもならず者が集まるこの街で
鍵も掛けずに店を空けるとは、よく泥棒に入られないものだ。

部屋の四隅には、先を床につけた剣を両の手で支えている
同じ型の甲冑が立ち姿で展示されていた。

ヤグチはふらついた足でそのうちの一体に近づいた。
そして下から中を覗き込むと、大きなため息をつく。

「ダメ、空っぽだ。誰もいやしない」

甲冑の中に人がいるなら気配でわかりそうなものだが
空腹のあまり今のヤグチには判断できないらしい。
甲冑に背を向けると目を閉じてうなだれた。

132 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/01(金) 03:03:53 ID:1U5PTH3O0
アヤは腕組みをしながら展示品に目をやった。
なるほど、さすが大きな街の武器屋だ。品揃えは豊富で、しかもいいものが揃っている。

遅れて店に入ったカオリだが、彼女は一歩足を踏み入れるなりヤグチを指差し叫んだ。

「ヤグチ! 危ないっ!!」

「はぁ?」ヤグチはゆっくりと後を振り返った。
中身のないはずの甲冑が、剣を振り上げている。
あっと思う間もなく、剣は振り下ろされた。
ヤグチは間一髪飛びのいた。
後頭部を剣がかすめ、髪の毛がパラパラと舞った。

それを合図に、他の三体の甲冑も動き出した。
アヤは慌てて剣に手を沿えた。カオリが側に駆け寄る。
ヤグチは姿勢を低くして、弓ではなく腰にさした短剣を手に取る。
狭い部屋の中では放つまで時間の掛かる弓より使い勝手がいい。
とはいえ、中身のない甲冑に有効とは思えなかったが。

四体の甲冑は剣を構え、背中合わせにして部屋の中央にかたまる三人に
ジリジリと詰め寄った。

「やめな!」

どこらから声がした。三人は見回したが、声の主はどこにもいない。
ガタガタと頭の上から物音が聞こえた。
見上げると、カウンターのちょうど上の天井板がスッと一枚はずれた。

「お客さまに失礼じゃないか」

顔を覗かせたのは、顔中皺だらけの老婆だった。

133 : ◆kjXPuSaNuc :2006/12/01(金) 07:52:22 ID:1U5PTH3O0
章変わりで二週間ほどあけようとは思っていたのですが
一ヶ月以上あいてしまいました。申し訳ないです。

>>124
聞いたことありますかw 
心当たりはないんですが色んな影響は受けてるので
その中のなにかが出たのかもしれません。

>>125
たいへんお待たせしましたw

>>126>>127
保全感謝です。

134 :ねぇ、名乗って:2006/12/01(金) 23:13:33 ID:uY6kHxV9O
F-Logさん乙です!

続きが楽しみで毎日チェックして待ってましたっ!!

135 :ねぇ、名乗って:2006/12/02(土) 00:21:39 ID:n6jSml7n0
お疲れです!待ってましたよ!
店内でも危険はいっぱい。この小説の特徴ですねw

136 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/09(土) 02:03:10 ID:B8ynLt/L0
「ちょっとお待ちなさいよ」

老婆はそう言うといったん顔を引っ込めた。そして下半身を出し、足をバタつかせた。
降りようとしているらしいが、足がかりになりそうなものは一切ない。
長い杖が現れ、なにかを探るように右に左にと動いた。

ひょっとすると、本来ならそこに梯子かなにか立てかけてあったのかもしれない。
そんなことを考えているうちに、老婆の体がずるりと滑った。

「危ない!」

アヤらが駆け寄る間もなく、老婆は天井の穴から落ちた。
が、彼女の体は床に激突することなく、宙に浮いている。
よく見ると、老婆は杖を握っており、その先は天井の穴へと続いていた。
杖がゆっくりと伸び、彼女の姿はカウンターの中へと消えた。

「よいしょっと」カウンターの中から声がした。
穴から杖の先端が現れる。傘の柄のようにU字型に曲がっている。
どうやら、天井の梁かなにかに引っ掛ける構造になっているようだ。
杖は徐々に縮んで先端がカウンターから覗くほどになった。

「ごめんなさいね、以前は『番兵注意』『御用方は呼び鈴を』の張り紙をしとったんじゃが
 最近は新しいお客も来なくなったんでね」

長い杖を突きながらカウンター脇から姿を現せた老婆は
ヤグチよりもさらに背が小さかった。

137 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/09(土) 02:05:49 ID:B8ynLt/L0
警戒心を解かずにいるアヤとヤグチをよそに、カオリは甲冑に歩み寄った。
剣を振り上げたまま固まったかのようにたたずむ甲冑の
大きく膨らんだ胸板を覗き込み、指でさすると笑顔を向けた。

「これね」

老婆は皺だらけの顔にいっそう皺を刻み、笑みを浮かべうなずいた。

「そうやって印を刻んでおけば、わしの命令どおり動いてくれる。
 この街でしょぼくれたババアが商売できるのも、コイツらのお蔭じゃよ」

カオリのさす指の先に魔法陣が描かれていた。
生命のないものを操る、もっとも基本的で、もっとも高度な魔法だ。
アヤとヤグチは肩の力を抜いた。どうやら敵意はないようである。

「どれどれ、アンタにピッタリの杖は…」
老婆はそう言って杖の並べられた展示スペースに歩き出した。
「これなんかどうじゃな。火の精霊が宿る大樹で作った杖じゃ。
 黒魔法なら五つまで印を刻めるわ。しかも、効果倍増じゃ」

喜色を浮かべカオリは駆け寄って老婆から杖を受け取った。
振ってその感触を確かめると、満足そうにうなずいた。

「あとはそうじゃな、これはどうじゃ。水の精霊の宿る大樹から出来た杖じゃ。
 アンタのような者でも、強力な結界が張れるぞ。
 もしくは…多少効果は薄れるが白黒両用のコイツなんかもいいかもしれんぞ。
 おーるまいちーじゃ。今一番の売れ筋じゃよ」

「どーしよっかなぁ」

どれにしようかと、瞳を輝かせカオリは並べられた杖に見入った。
が、当然のことながらアヤにそんなつもりはなかった。

138 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/09(土) 02:08:11 ID:B8ynLt/L0
「あのね、お婆さんには悪いんだけど、ウチら買い物に来たんじゃないんだよね。
 ちょっとさ、聞きたいことがあって来たんだよ」

アヤがそう言うとヤグチも大声を上げた。
「そっ! この辺にさぁ、なんか食べ物売ってるとこってない?」

ここへきて一番に尋ねるのがそれかよ、とアヤは天を仰いだ。
老婆は「食べ物ねぇ」と頭を捻った。

「この街におるのは、大半がお尋ね者なんじゃよ。それを狙って賞金稼ぎも現れる。
 なんで皆、昼間は出歩きたがらないんじゃ。まあ奴らの習性じゃな。
 いきおい、商売も日が沈んでからになるわな。今時分に店開きしているのは
 昼夜とわずケンカ三昧の連中相手の、薬草売りの行商かウチぐらいのもんじゃ」

もっとも、自分ぐらいの大魔法使いだからこそ眠る必要もなく
年中無休終日営業が可能なのだ、と老婆は胸を張った。

まったく食品を扱う店はないのかと食い下がるヤグチに
老婆は町外れに行けば野山に生る果実を売り歩く輩がいるかもしれないと答えた。
ただし、そこまで行くなら夜を待った方がよほど早いと。

「マジかよ…」ヤグチはその場にへたり込んだ。
それを一瞥しアヤは老婆に歩み寄った。

「ちょっと小耳に挟んだだけど、お婆さん大聖堂の歴史に詳しいんだって?」

老婆の顔が曇る。黙ってカウンターへと足を進める。
その後を追ってアヤは続けた。

「アタシら、その大聖堂に用があるんだけど、色々と教えてもらえないかなって」

139 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/09(土) 02:11:23 ID:B8ynLt/L0
「客じゃないんなら帰っておくれ。世間話に付き合うほど暇でないんでね」

そう言ってカウンターの中に姿を消した。
ちょうど天井の穴の下に立つと杖がゆっくりと伸び始めた。
それまで動きを止めていた甲冑がギシギシと軋むような音をたてる。

アヤは腰に手をやり、呆れ顔で大きくため息をついた。

「ヤグチ! 魔法の矢、買っていいよ。好きなの選びな」

ゴム人形のようにへたり込んでいたヤグチが勢いよく立ち上がった。
そして満面の笑みをたたえ弓矢が並べられたコーナーへ走った。
体がカウンターから出たところで上昇を止めた老婆が、指差しながら声をあげる。

「右から炎の矢、氷の矢、雷の矢じゃ。アンタが今手にしてるのは癒しの矢」
「癒しの矢?」
「そうじゃ。怪我をした者に向けて放つとたちどころに治るんじゃ。
 もっとも、刺さると痛いんで誰も使わんがの」

「もう! なんでよ!!」カオリが声を荒げる。
「アヤッペ、いっつも言ってるじゃん、魔法の矢なんて打ったら終わりだから無駄だって!
 そんなの買うんだったらさ、杖買ってよ杖!」

訴えかけるカオリを、アヤは一喝した。

「杖は高い! カオリも魔法使いの端くれなら、自分で作りなよ!」

「そんなこと言ったってぇ…」カオリは口を尖らせぼやいた。
「精霊の宿る樹なんて、どこに生えてんのさ」

140 : ◆kjXPuSaNuc :2006/12/09(土) 02:17:32 ID:B8ynLt/L0
>>134
ホント、お待たせしました。
年明けぐらいまで多忙なんですが、なるべく更新間隔を空けないようにします。

>>135
)店内でも危険はいっぱい。
書いていて、まったく気づいてなかったです。
言われてみれば確かにねw

141 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/15(金) 23:41:15 ID:xItDoJ9n0
「で、なにが訊きたい?」

そう言って老婆はカウンターの上に降り立った。
カウンターはアヤの腰辺りの高さだが
その上に立ってもまだ老婆の方が低い。

アヤが口を開くより先にヤグチが声をあげた。
「ねえ、これなにさ?」

ヤグチは一本の矢を見上げていた。
他の矢は束ねて無造作に置いてあるのに対し
その矢一本だけはさも大事そうに壁に展示してある。

「ああ、それ」老婆はアヤの肩越しに矢を眺めた。
「すまんが、それは売り物じゃないんじゃよ」

「ふ〜ん、そうなんだ。で、なんなのさ」

ヤグチが振り向くと、老婆はいやらしく笑った。
「賢者の矢じゃよ」

「賢者の矢?」今度はアヤが声を上げた。
「ってことはなに、あの矢は賢者の石、つまりオリハルコンで出来てるってこと?」

「そうじゃよ、極めて純度の高いな。しかもただのオリハルコンじゃあない。
 最初から魔力を帯びた、そう、アンタの腰にあるのとおんなじじゃよ」

おもわずアヤは剣に手を触れた。まったく抜かずして気づかれたのは初めてだ。
先ほど甲冑に襲われたときも、柄を握っただけだった。

142 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/15(金) 23:42:50 ID:xItDoJ9n0
「ホントかなぁ。カオリ! 見てみろよ。これ賢者の石で出来てるんだって!」

魔力のないヤグチは、そう言ってカオリを手招きした。
杖を買ってもらえないカオリはふくれっ面のまま
それでも興味があるのか、矢に近づいた。

「ホントだ。矢としては、かなり強い魔力だよこれ。
 でも、印を刻んでないね」

「当たり前じゃろが」
老婆は言い放った。最初から魔力があるのだから印を刻む必要などない。

アヤがカウンターに片肘をついて老婆に顔を近づけた。
「でもよくわかったね、コイツがクイーンソードだって」

老婆はただニヤついてみせるだけで、なにも答えなかった。

欲しい矢が決まったようで、ヤグチが一束抱えてカウンターに置いた。
そして老婆に笑いかける。
「見たい? クイーンソード」

余計なことを言うなと、アヤはヤグチをにらみ付けた。
が、老婆はフンと鼻を鳴らすと矢の束を吟味しながら

「ここをどこだと思っておる。キングソードが眠るチョコラブーじゃぞ。
 クイーンソードなんぞ、屁でもないわ」

「で、そのキングソードの話なんだけど」アヤは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「ホントなの? あそこの地下にあるって」

そう言って窓から望む大聖堂を指差した。

143 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/15(金) 23:45:04 ID:xItDoJ9n0
「本当じゃよ。伝説の剣はあの大聖堂にある」

「でもさ、それって人集めのために流したガセだって、オイラ聞いたよ」

「それは違う。剣の伝説はいにしえからの言い伝えじゃ。
 昨日今日生まれた話でないわ。
 それを魔物退治に苦慮した馬鹿な議会が大々的に宣伝しおった。
 おかげでこの有様じゃよ。……これはまだ若いな」

束の中から一本を取り出し老婆は呟いた。
ウチは良心的な店だから魔力の溜まりきっていない矢は売らないのだと。
カウンターに頬杖をつき、その作業を目で追いながらヤグチが言った。

「オイラ思うんだけどさ、ホントにあるんだったら、建物潰して調べりゃいいじゃん」

「それは出来んな。なんせ古代の強力な結界で守られておる」

軍事施設や公共性の高い建築物を建てる際に
結界を張ることは特別なことではない。

基本的にそれを破るには、より強い魔法が必要になるのだが
どんな結界なのかがわかれば、少しづつ切り崩すことで
小さな魔力でも破れる。

だが魔法陣はは複数の意味ある図形によって形作られ
どう組み合わせるかが、魔法使いにとっての個性でもある。
その組み合わせは無数にあり、解読するのは不可能だといえた。

144 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/15(金) 23:47:11 ID:xItDoJ9n0
ただ街の大聖堂なのだから、資料が残っているはずだと、アヤが指摘する。
でなければ改装も取り壊すことも出来ない。
だが老婆はかぶりを振った。

「大聖堂は古代の建築物なんじゃよ。以前、老朽化が進んでおるんで修築の話がでての。
 議会が、あちこち調べまわったんじゃが、結局見つからなかったわ」

アヤは振り返って窓の外を眺めた。

枯れた噴水の向こうにそびえ立つ大聖堂は、なるほど壮大かつ絢爛で
魔兵団でも使えばともかく、そこらへんの魔導師や魔術師では
何人集まろうと結界を破ることは到底無理だろうと、想像できた。

とはいえ、それがキングソードの眠る地だという根拠にはなりえない。
もっと古い建造物はたくさんあるし、その中にはどのような結界が張られているか
判明していない物も少なくないのだ。

話を戻そうとアヤは老婆に目を戻した。

「それで、そのいにしえからの言い伝えってどんな?」

そう尋ねると、老婆は矢の選別をやめ
得意げな顔つきで話し始めた。

「そもそも、この地は勇者終焉の地なんじゃよ」

145 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/15(金) 23:51:26 ID:xItDoJ9n0
「はぁ? 勇者終焉の地っていったら聖都じゃん」

早々に話の腰を折られ、老婆はヤグチをにらみ付けた。

とはいえ、勇者がその地で没したからこそ都が造られたのだ。
紙にかかれた記録では最も古いといわれる書物にも、そのことは記されており
一地方都市の伝承で覆るようなものではない。

アヤがそう言うと、老婆の口ぶりが重くなった。

「それはあれじゃ…確かに死んだのは今の聖都かもしれんが…
 大聖堂に剣があるのは間違いないわけで…じゃから、まあその…
 剣を置いた時点で、勇者は、勇者ではなく、ただの人となったわけで
 …つまりじゃな、勇者としてはじゃな、この地で終焉を迎えたと…」

話が一気に胡散臭くなってきた。
アヤはひとつため息をつくと矢の束を掴んでヤグチに差し出した。

「これ、戻しといで」
「えっ! 買ってくれんじゃないの?」
「作り話聞くために払う金なんてないの。いいから戻して」

慌てて老婆はカウンターから身を乗り出した。

「待て、待て、待て! いいことを教えてやるわ。大聖堂の二階に書庫がある。
 そこへ行って『プッチモニ文書』を探すのじゃ」

146 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/15(金) 23:56:07 ID:xItDoJ9n0
「プッチモニ文書?」

アヤは矢の束をカウンターに戻した。

「本来なら魔法の矢一束ぐらいで教える情報じゃないんじゃがの、しょうがあるまい。
 この地方に伝わる民話や童話を集めた古文書じゃよ。
 勇者や伝説の剣にまつわる話は載っとらんから、盗まれてはいまい」

「探してどうすんの?」

「それは言えんな。自分たちで確かめることじゃ」

疑わしげな眼差しをアヤが送ると、老婆は顔を逸らせいじけるように言った。

「わしの話を信用するかしないかはアンタらの勝手じゃが
 グズグズしとると他の連中に先を越されてしまうぞ。ほれ、見てみい」

老婆は杖で窓の外を指した。「奴ら、毎日のように大聖堂を訪れておるわ」

アヤとヤグチは揃って窓の外に目をやった。
熱心に賢者の矢を眺めていたカオリも気配を感じ
一旦アヤらに目を向けると、同じように外を覗いた。

「なにをしとると思う」老婆の瞳が怪しく光る。
「『プッチモニ文書』を探っておるのじゃよ」

そこには大聖堂の大きな扉に向かう、二つの人影があった。
昨夜、酒場で出会った剣士と魔術師、サヤカとケイだった。

147 :ねぇ、名乗って:2006/12/17(日) 00:57:29 ID:ptMHnyHA0
乙です!
「プッチモニ文書」・・・。
ちょっとうけましたw
中身が気になりますねww

148 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/28(木) 23:38:31 ID:Vsed+N4d0
「あっ、あの二人!!」カオリは掌を口元に当て言った。
「やっぱ、そうだよ。会いたかったら大聖堂に来いなんて言ってさ
 会わすつもりなんて、全然なかったんだよ」

ヤグチが窓に駆け寄り枠に手をついて身を乗り出す。
ゆっくりと慎重に辺りを見回すが、二人以外の人影はない。
そう、マキの姿が見えないのだ。

「アイツらぁ!」

憎々しげに言って舌を打つと、ヤグチはカウンターまで掛け戻り
魔法の矢を一本掴んで弓につがえた。

「ヤグチ! アンタなにするつもり?」アヤが声を上げた。

「決まってるじゃん。試し打ち」

そう言って弓を引き絞る。サヤカが振り向いて探るような視線を巡らせた。
が店内は暗く、こちらに気づく様子はまったくない。
──背を向けたときがチャンス──ヤグチは舌なめずりした。

標的は辺りをうかがいながら屈んで扉に手を添えた。
どうやら扉からではなく、扉の下部に作られたくぐり戸がから中に入るつもりらしい。

くぐり戸を引き、サヤカが体を潜り込ませようと背を向けた。
今だ!──矢を放とうとしたその瞬間、弓をアヤに掴まれ引き下げられた。

「なにすんだよ!」ヤグチの瞳に怒りの色が浮かぶ。

これだけ離れていれば、いかに優秀なハンターでも気取られる心配はない。
そしてヤグチには、この距離でも命中させるだけの自信があった。

149 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/28(木) 23:40:19 ID:Vsed+N4d0
「いいから、行くよ」

アヤは老婆に代金を支払い、ヤグチの胸元に矢を押し付けると、足早に店を出た。

「とにかく、後をつけよう」

枯れ噴水の中央を突っ切り、最短距離で大聖堂まで駆ける。
武器屋の老婆が言うように「プッチモニ文書」なるものを
連中が調べているのか、確かめなければならない。
カオリとヤグチも必死にアヤを追った。

扉の前までたどり着くと、ヤグチは自分の背丈よりも高い位置にある取っ手に手をかけた。

「これ、動かないよ」

鍵がかけられているのではなく、どうやら扉自体が傾いで開かなくなっているようだ。
アヤは屈んでくぐり戸が開くことを確認すると、振り向いて二人の顔を見た。

「カオリ、一緒に来て。ヤグチはここで待ってな」
「はあ?!」
「アンタ着いてきたら、なにするかわかったもんじゃないでしょ。
 それに、そんなに殺気だっていたら、すぐ気づかれちゃうよ」

そう言ってアヤはくぐり戸を開くと、再度振り返って
「入ってきたら晩ゴハン抜きだからね」と釘をさした。

続いてカオリが中に入り、くぐり戸を閉めながら
「じゃね〜」ととびっきりの笑顔で手を振った。

「なんだよ、オイラだけハブしやがって!!」

ヤグチは力一杯、地面を蹴り飛ばした。

150 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/28(木) 23:42:05 ID:Vsed+N4d0
大聖堂の中は灯りがなく、くぐり戸を閉めると闇に包まれた。
アヤとカオリのふたりは、目が慣れるのを待ちながら辺りの気配を探った。

そこは悪意が満ち溢れていた。

傾いだ扉から漏れる一筋の光りの中に、むっくりと起き上がる人影が浮かんだ。
新たな侵入者であるふたりを興味深げに観察している。
が、彼女らに向けられた好奇の眼差しは、その一人だけではなかった。
大聖堂を定宿にしている連中がいるらしく、アヤとカオリは無数の視線に晒された。

カオリは寒気を払うように両肩を抱きすくめた。

かつて敬虔な信徒が集い神聖な儀式が行われていた場所と思えない。
面影はなにひとつ残っていなかった。
あるのは朽ちたインテリアとすえたような臭い、そして欲と悪意。

「まっ、これだったらヤグチが入っても気取られなかったかもね」

アヤは独り言ちた。確かに、これだけ敵意に満ちていれば気配を察知される心配はない。
がしかしヤグチの場合だと、この連中と騒動を起こしかねない。
やはり外に置いてきて正解だったとアヤは思った。

正面の立派な装飾が施された扉を開ければ、そこがおそらく礼拝堂なのだろう。
が、彼女らは巡礼に来たわけではない。さしあたって必要のない場所だ。
アヤは左右に伸びる廊下を、どちらに進むべきか頭を巡らせた。

カオリが肩を叩いて右を指差した。迷っていても仕方がない。
アヤはうなずくとそちらに足を向けた。

151 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2006/12/28(木) 23:43:38 ID:Vsed+N4d0
とその時、何者かがアヤの足を掴んだ。
振り向くと眼帯をした男が、掌を差し出している。
中に入るなら、金をよこせということだ。
カオリが顔を近づけ、囁くように言った。

「アンタねぇ、ウチらを誰だと思ってんの?」
「カオリ!」

叱責するとアヤは硬貨の入った小袋に手をやった。
あちこちからガサゴソと物音が聞こえる。ざっと見渡したところ、十人はくだらない。
勝てない人数ではないが、こんなところで足止めは食らいたくない。
素直にいうことをきいた方が賢明だ。

「知ってるよ」男がしわがれた声で言った。
「昨日の晩、酒場で騒ぎを起こしたろう。だから金貨一枚でいい。
 本来なら、新顔を通したりはしない」

「金貨一枚!」カオリは思わず声をあげた。
自分の声の大きさに驚き、口元に手を沿え辺りを見回す。
「まさか、入るたんびに獲るつもりじゃないでしょうね」

男はにやついてみせるだけで、なにも答えなかった。
アヤは黙って男の掌に金貨を一枚、落とした。
が、男は手を放そうとしない。そして、人差し指を立てた。

「一人一枚、だ」

152 : ◆kjXPuSaNuc :2006/12/28(木) 23:45:29 ID:Vsed+N4d0
>>147
気に入ってもらえましたかw
中身は現在、思案中ですw

153 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/01/06(土) 02:08:06 ID:nimAHEsi0
長い廊下の突き当りまで行き左を向くと、果たしてそこに階段があった。
上りきったところの扉を開くと、礼拝堂内に設置されたバルコニーにでた。

礼拝堂の正面には荘厳なステンドグラスがあったが、煤けてほとんど外光は入ってこない。
バルコニーは光り取りの小窓を開け閉めするためのもので
カオリがその窓を開けてようと試みたのだが、うんともすんともいわなかった。

一歩足を進めるとギシギシと床が鳴り、武器屋の老婆が言っていた
「老朽化が進んで」というのは嘘ではないらしい。

バルコニーから下を覗くと、本来そこにあるはずの長椅子が撤去され
一部の床板が剥がされて、地面がむき出しになっていた。
おそらく地下室を探そうとしたのだろう。
が、結界に阻まれ深くは掘れなかった様だ。

「ここ、違うのかな」

カオリがつぶやくと、アヤは腰を落とし彼女のマントを引っ張った。

「これ見て」

髪をかき上げ、カオリは屈んでアヤの指す先に目をやった。
が、暗くてよく見えない。指を鳴らして火を燈す。
照らされた床に、真新しい足跡があった。

アヤは顔を上げた。「行くよ」

154 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/01/06(土) 02:09:20 ID:nimAHEsi0
足音をたてないよう、そろりそろりと進む。
突き当たりまで行ったところで、足跡は忽然と消えていた。
引き返した様子はない。

「もう、どうなってるのさ」

カオリは頬を膨らませた。腕組みをして壁にもたれかかる。
が、体はそのまま後に倒れこんだ。体勢を整えようと両手をばたつかせる。
慌ててアヤがその手を掴んで引き寄せた。

「ふぅ…危ない、危ない」

カオリが振り返ると、壁が奥に向かって開いており、その先に細い通路が続いていた。

「隠し扉!?」
「みたいね」

自動的に閉まりそうになる扉を押し開け、アヤは蝶番の辺りを探った。
そこに複雑な構造が見て取れる。
今は機能していないが、簡単に開かないようになっていたらしい。
後から覗き込んで、カオリは口元に笑みを浮かべた。

「なんかさ、いかにもお宝がありそうな感じしない?」
「だね」

ふたりは息を殺して、その先に進んだ。

155 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/01/06(土) 02:10:42 ID:nimAHEsi0
「なんだよ、つまんねーなぁ」

枯れた噴水の淵に腰掛け足をぶらぶらさせながら、ヤグチは大聖堂を見上げた。
今現在、あの中でなにが行われているのか、想像しただけで胸が高鳴る。

潜入しようと何度も扉の前まで行ったが、アヤの言った「晩ゴハン抜き」が
頭をよぎり、そのつど引き返しては恨み言をつぶやいた。

「もう見つけたかなぁ。オイラがいたら、ギタギタにしてやるのに」

ヤグチは晩秋の陽の光りに目を細めた。
ここ数日、寒い日が続いていたのだが、今日は雲ひとつなく風も穏やかで過ごしやすい。
あまりの退屈のせいか、それとも今朝早かったせいか、急に睡魔が襲いかかってきた。

「遅いなぁ」そう言って大きなあくびをひとつした。

眠気を振り払おうと体を左右にひねる。
アヤらが出てきた時に、居眠りなんてしていたら格好がつかない。
姿勢を正して頬を軽く叩き、気合を入れる。

が、すぐにまぶたが重くなってくる。頭を激しく振り、大きく息をする。
そしてまた、眠気が襲い掛かってくる。そんなことを繰り返していた。

156 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/01/06(土) 02:14:01 ID:nimAHEsi0
「……チさん…」

いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
どこからか声が聞こえ目を開けると、そこにすらりと長い足が二本あった。

「ヤグチさん…ですよね」

見上げると、大きな袋を抱えた少女が目の前に立っている。マキだった。
ヤグチは口元のよだれを拭いながら、慌てて立ち上がった。

「昨日はどうもありがとうございました」マキは深々と頭を下げた。
「ホントはすぐにお礼言いたかったんだけど、そんな空気じゃなかったし」

「いいよ、いいよ、そんなの」

ヤグチは顔の前で手を振って応えた。決まりが悪そうに頭をかくと、苦笑いを浮かべる。

「ここ、座んない?」と噴水の淵を指す。
マキがこくりとうなずき、二人は並んで腰掛けた。

「こんなところでなにしてたんですか?」

ヤグチの顔を覗き込むようにしてマキが言った。

「えっ! いやぁ、ちょっとね。ハハハ」

アンタの仲間を探りに来たとは、口が裂けても言えやしない。
ヤグチは笑って誤魔化した。

157 :ねぇ、名乗って:2007/01/20(土) 00:18:16 ID:gzBJsgzx0
なかなか面白くなってきたねぇ

158 :ねぇ、名乗って:2007/01/20(土) 12:48:51 ID:I3MzMcptO
待ってるよ〜

159 : ◆AvluhZaSuE :2007/01/30(火) 00:58:26 ID:GYeHi3Ib0
ageときますね。

毎回楽しく読ませてもらってます。
気長に更新待ってますよ^^

160 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/02(金) 01:46:40 ID:Ulxc61p10
「マキちゃんはどうしたの。あのふたりと一緒じゃないの?」

マキは笑みを浮かべかぶりを振った。

「マキでいいですよ。アタシはねぇ、お買い物」

そう言って袋を傾けて見せる。ヤグチは袋の口に指をかけ開いて覗いた。
中には熟れた果実や木の実がいっぱい入ってる。

「うわぁ! うまそー」
「食べます?」

マキは袋から梨をひとつ取り出した。

「いいの?」と一応は確認しつつも、同時にヤグチの手は梨に伸びていた。
マキが笑顔でうなずく。が、それを見る前に梨に噛り付いた。

「助かったよ。オイラ朝からなんにも食べてないのよ」

種を吐き出しながらヤグチが言うと、マキは袋を探って梨をもうひとつ取り出した。

「も一個食べます?」

ヤグチが笑顔でうなずき受け取ると、自分もひとつ出して食べ始めた。
他愛もない世間話をしながら、二人は梨五個に葡萄を三房、クルミなどの木の実を十数個
平らげた。

「いやいや、これでなんとか落ち着いた」

ヤグチは満足そうにお腹をさすった。
その様子をマキは微笑ましそうに見つめた。

161 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/02(金) 01:48:11 ID:Ulxc61p10
「なにぃ、そんな笑わないでよ」

マキの視線に気づいたヤグチが、不満そうに唇を尖らせた。マキは慌てて首を振った。

「違うんです。なんか、美味しそうに食べてるヤグチさん見てたら
 ユウキのこと思い出しちゃって」

「そっか」ヤグチは真顔になって身を屈めた。膝の上で手を組み、足元に目をやる。
「心配してたよ、アンタのこと」

マキはなにも答えず、顔を逸らせ伏し目がちにうつむいた。

「なんかさ、ウチらにチョコラブーまで連れてけっとか言って」

マキは顔を上げ目を見開いてヤグチを見た。ユウキの大胆な行動に驚いているようだ。

「オイラは連れてったげてもいいかなって、思ったんだけどさ。
 あとのふたりが反対して。アヤがさ…あっ、アヤってのはボサボサ頭の剣士の方。
 アイツがさ、ユウキまで連れてったら、酒場の女将がかわいそうだって言って」

「かあさん、どうしてるかな」深いため息をついて、マキは呟いた。

「あ、おかあさんね」

ヤグチは酒場の女将がマキの母親であることを今更気づいたかのように言うと
マキに顔を向け明るい声で続けた。

「元気にしてたよ。それで、すっごく心配してた、マキちゃんのこと」

「ウソ」マキの口元に、寂しげな笑みが浮かんだ。

162 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/02(金) 01:52:14 ID:Ulxc61p10
「ウソじゃないって。帰ってきて欲しいって言ってたよ。
 前みたく店を手伝ってもらいたいってさ」

マキは目を閉じると、静かに首を振った。

「わかるもん。かあさん、そんなこと言わないって。
 だってアタシ、あの人の娘だから」

ヤグチは顔を逸らせた。掛ける言葉が見つからない。
組んだ手を広げたり閉じたりと指遊びを始めた。

うちには娘なんていないとはき捨てた女将の顔が脳裏に浮かぶ。
まだ、大人になりきっていないヤグチには、あの言葉が本心なのか
ああ言いながらも、心の底では娘を案じているのか、判断がつかない。

アヤほどの年齢になれば、マキを勇気づけたり癒したりできるのだろう。
だが今のヤグチには、切なげに微笑むマキの横顔を見つめることしかできなかった。

西に傾きかけた陽を見上げていたマキが、突然思い出したように立ち上がった。

「いけない、もう行かないと」

腕の中で袋を持ち直し、二、三歩駆け出して振り返ると改めて深々と頭を下げた。

ヤグチは慌てて腰を上げ「ごちそうさま、美味しかったよ」と手を振って見送った。

163 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/02(金) 01:53:45 ID:Ulxc61p10
「…………ちょっと…く、苦しい……」

カオリはそううめくと寝返りを打つように体をよじり、体勢を変えようとした。

ギシっと板が軋むような小さな音が鳴る。

アヤが顔を向けカオリを睨み付けた。
カオリは手刀を顔の前に差し出し、すまなさそうに顔を歪めた。

アヤは顔を戻すと、淡い光の差し込む板と板との隙間に目をやった。

ほとんど本の並べられていない本棚の向こうに、机に向かう後姿が見える。
時折ページをめくる紙の音が聞こえる程度で、まったくと言っていいほど変化はない。

カオリに顔を向けあごをほんの少し動かす。
カオリは苦しそうな表情でかぶりを振った。

ふたりが居るのは、大聖堂の二階にある書庫の天井裏。

なにやら書物を広げ調べ物に余念のないケイをアヤが
机の上に片膝を抱えて座り、ただぼんやりしている
サヤカをカオリが監視している。

164 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/02(金) 01:56:25 ID:Ulxc61p10
監視を始めた当初は、あちらこちらの本棚からふたりして
書物を運んでは今ケイが向かっている机に並べ
乗り切らない分は、床にうずたかく積み上げるといった
作業を繰り返していたのだが、その後この状態に入って
かなりの時間が経過している。

ケイがなにを調べているのか、どんな書物を開いているのか
天井裏からでは見ることは出来ないし、動きがなければ監視する意味もない。

だが、こう静まり返っていては、退くことも出来ず
アヤとカオリはこの狭いスペースで
音を立てないよう無理な姿勢で耐えるしかなかった。

カオリがもう限界だと首を振る。
アヤは「もうちょっとだから」と唇を動かした。

が、カオリは今にも泣き出しそうな顔で、なおいっそう激しく首を振った。
唇が「ダメ! ダメ!」と動いている。
もし声が出ていたらさぞ悲痛な叫びだったろう。

ゴトリと物音が鳴った。ふたりは真顔になった。

アヤが睨みつけるような視線をカオリに送る。
カオリは一旦、自分の顔を指差した後、違う違うと小刻みに手を振った。

階下から「誰ッ!」というサヤカの声が響いた。

ふたりの肢体に戦慄が走った。

165 : ◆kjXPuSaNuc :2007/02/02(金) 02:06:09 ID:Ulxc61p10
>>157
ちょっと説明くさい感じになってきたかな、と思っていたので
そう言って貰えると嬉しいです。

>>158
お待たせしましたw

>>159
ありがとうございます。もっと早く更新できるよう、がんばります。

気分転換にネタとか書き始めたら、そっちが楽しくなっちゃってw
ちょっと反省して、これからは小説の方に力を入れていきます。

166 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/09(金) 02:11:22 ID:u8IZ+rny0
「誰ッ? 出てきな!」

サヤカは机の上に素早く立ち上がり、物音のした方に強い視線を向けた。
柄を握る手に力が入る。

ケイは読んでいた本を閉じると、机に積まれた書物の中に滑り込ませ
傍らに立てかけた杖に手を伸ばした。

高まる緊張感の中、ゆっくりと扉が開いた。サヤカの表情が和らぐ。
ひとつ大きな息をついて、入り口へと足を向けた。

「なんだ、驚かすなよ」
「遅いよ〜。今までなにやってたの」

肩を落とし呆れ顔でケイが言った。そして、背もたれに手を掛け
重い荷物を背負っているかのように、大仰な仕草で立ち上がる。

扉の外に立っていたのは、マキだった。
彼女は「ゴメンね」と舌を出すとふたりに駆け寄った。

サヤカは袋に手を突っ込み、梨を取り出すと一口、二口と続けて頬張った。
袋の端に手を掛け、中を覗き込んだケイが、つと顔を上げ声を荒げた。

「こんだけ? ちょっとぉ! アンタ、途中でつまみ食いしたでしょ?」

マキは首をすくめ、白い歯を見せて悪戯っ子のような笑顔を見せた。

167 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/09(金) 02:12:39 ID:u8IZ+rny0
サヤカが二つ目に手を伸ばす。

「ちょっとぉ、サヤカばっか食べないでよ」とケイは袋ごとマキから奪い取った。
「もう、なんだよ! ほとんど残ってないじゃん」

袋の中を探るケイを尻目に、マキは先ほどまでケイが座っていた席に着いた。
そして本の山をひとつひとつ指差しながら確認すると、一冊の書物に手を伸ばした。
が、それは山の裾野にあたる部分にあり、引っ張ってもなかなか抜けない。

マキはえいとばかりに力を込めた。書物は抜けた。
と同時に、積み上げられた本が雪崩のようにマキに襲い掛かった。

「きゃあああ」

叫び声をあげるマキに、葡萄を一粒口に含みながらケイが呟いた。

「なにやってんの」

サヤカが笑い転げながらもマキの救出に向かう。
「大丈夫かよ」と言いながら崩れた本を掻き分ける。

「痛てて…」後頭部を抑えながらマキが顔を上げた。

「瘤になってんじゃないの」と背後からマキを眺めていたサヤカだが
ふと笑みを引っ込め、天井の隅を見やった。

168 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/09(金) 02:14:23 ID:u8IZ+rny0
「どうしたの?」

崩れた本の山を積み上げながらマキは訊いた。
まだ痛むのか、しきりに頭をさすっている。

サヤカは手を差し出し、静かにするよう促した。
──天井裏でなにかが動いた気配がした──
剣に手をやり、本棚の隙間から気配の先を覗こうと腰を屈めた。

「変なの」とマキは横目で眺めながら、最後の一冊を山の頂に置いた。
が、余所見をしていたせいで本の山はバランスを崩し
今度はサヤカに向かって雪崩を起こした。

「痛ってぇー!」

姿勢を低くしていたことが災いし、もろに頭からかぶってしまった。
両手で頭を抱えながら、涙目になってマキを見上げる。

「なにすんだよ!!」

「ゴメン、大丈夫?」しゃがんで膝を抱え、マキが尋ねる。

「マキのこと笑うからだよ」と、葡萄を持った手で指差しケイが爆笑している。

サヤカは床に胡坐をかいて座り、手元の本を思いっきり壁に投げつけた。
そして、天井の隅を見上げる。もう、なんの気配も感じられなかった。

169 : ◆kjXPuSaNuc :2007/02/09(金) 02:19:15 ID:u8IZ+rny0
短め申し訳。

バスターミナルで目的地はわかってるけど、どれに乗ればいいのかわからない──
ただいま、そんな状態です。

170 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/16(金) 01:59:11 ID:aJh66QED0
「痛て!」

ヤグチはそう叫んで頭を押さえた。

見上げると、そこには暮れなずむ空をバックに
顔を真っ黒に汚したアヤとカオリの姿があった。

「もう、ウチらが苦労してんのに、なに居眠りなんかしてんのよ」

体中の煤を払いながらカオリが言う。
アヤは腰に手を当て呆れ顔でため息をついた。

「違うって、オイラただ居眠りしてた訳じゃないって」

立ち上がって抗議しようとするヤグチの言葉をカオリが遮る。

「髪の毛グチャグチャ! 早く洗いたぁい」

指先で毛先を弄ぶカオリを、ヤグチはにらみつけた。
それを諭すようにアヤは、ヤグチの頭を軽く二度三度叩いた。

「だいたいね、選ばれし者が中に入ってきてるのに、見逃してるんだから。
 なに言われたってしょうがないじゃん」
「だから違うって。あれだろ、マキちゃん…」

「あー!!」またもやカオリが遮る。彼女は地面に散らばる果実の種を指差した。
「なんか食べたでしょ!」

171 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/16(金) 02:00:31 ID:aJh66QED0
「オイラのこと、置いてけぼりにするからだよ」
「ずるーい! カオリだってお腹ペコペコなのにぃ」
「どこで手に入れたの。武器屋のばあさんがくれたの?」
「それがさぁ…」

と説明しようとするヤグチを、三たびカオリが遮る。

「ねぇ、どうするの? こんなの見たらさぁ、カオリよけいにお腹空いちゃったよ」

種に目を落としながら、しきりに髪を触っている。
ヤグチは忌々しげにカオリの顔を見上げた。

「テメエ、少しは黙ってオイラの話を聞けよ! 会ったんだよ、選ばれし者に」

ふたりは驚きのあまり目を見張った。アヤがここで会ったのかと足元をさす。
ヤグチは得意げにうなずいて返した。

「しかも話もしたし、果物くれたのもマキちゃんなんだから」

どうだと言わんばかりにヤグチは精一杯、胸を張った。
予想外の発言に言葉を失ったアヤとカオリだったが
次の瞬間、競い合うようにしてヤグチに質問を浴びせかけた。

「どこまで訊いた? アイツらが探ってるのって、いったいなんなの?」
「カオリのこと、なんか言ってなかった?」
「プッチモニ文書ってなに?」
「例えばさ、あの髪の長い人、綺麗だねとか」
「あのふたりが選ばれし者をどうやって見抜いたか訊いた?」

矢継ぎ早に尋ねる二人の質問に、ヤグチは目が回りそうになった。

172 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/16(金) 02:01:42 ID:aJh66QED0
「もう、いっぺんに喋んなよ! わかんなくなるだろ」

アヤとカオリは顔を見合わせた。そして不思議な物体でも見つめるような視線を送ると
まずはアヤが身を乗り出し静かな口調で尋ねた。

「キングソードのこと、訊いた?」
「えっ! いや、それは…」
「なに?」
「…ちょっとそれは、訊きそびれた」

自分の顔を指し「カオリのことは…」と話し始めたカオリを
つまんないことを訊くなと、アヤが遮る。

不満げに唇を突き出すカオリをよそに、アヤは質問を続けた。

「プッチモニ文書のことは?」
「あー、それ訊くの忘れちゃってたなぁ」
「あの連中が彼女が選ばれし者って、なんでわかったの?」
「さー、なんでだろうね?」
「アンタさぁー、一体なに話したのよ!」

苛立ち大声を上げるアヤを尻目に、ヤグチは口元に笑みを浮かべ頭をかいた。

居眠りしているところを見られ、恥ずかしさのあまり一切のことが
頭の中から消し飛んでしまったなどとは言えなかった。

さらに果実を恵んでもらい、まるで町中で知人と出くわしたみたいに
世間話をして、そのまま普通に別れたなどと言えるはずもない。

173 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/16(金) 02:03:05 ID:aJh66QED0
「で、そっちはどうなのよ。なんか成果あったのかよ」

ヤグチが尋ねる。カオリは一瞬、見下すような視線をヤグチに送ったが
すぐに口元に笑みを浮かべた。

「へへへ。なんもない」
「調べ物してたのは確かなんだけどね、それがなんなのかは」

大聖堂を見上げアヤは眉をひそめ髪をかきむしった。

「なんだよそれ、だらしねーなぁ」
「居眠りしてたヤグチに言われたくないですぅ!」
「なんだと! やんのか、テメェ!!」
「まあ、まあ、まあ、まあ」

またもケンカになりそうなふたりにアヤが割ってはいる。
まだなにか言いたげにヤグチを睨んでいたカオリだが
ふとアヤに顔を向けると肩に手を乗せた。

「でもさ、アイツらが帰った後にもっかい忍び込んでさ、あの本調べたら
 なにやってたかわかるんじゃない?」
「なるほど、カオリもたまにはいいこと言うじゃん」

そのときは自分も連れてけよ、とヤグチは何度もうなずいてアヤを見上げた。
が、アヤは難しい顔でかぶりを振った。

「たぶんダメね。ほら、ウチらが行ったとき、あのふたりたくさん本を抱えて
 机に運んでたでしょ。あれ、帰るときに元に戻すんだと思うんだよね」

自分たちがなにを探っているのか、悟られないよう毎回、書庫に行くたび
本を集め、帰りには元通りにするのだろうと、アヤは推測した。

174 :F-Log ◆kjXPuSaNuc :2007/02/16(金) 02:04:30 ID:aJh66QED0
「それに、やたらと本を積み上げてたじゃん。ほとんどは関係ないヤツだよ、きっと」

そういえばマキが現れた際、ケイはすぐに手元の書物を本の山に紛れ込ませていた。
自分たちが調べている最中、帰った後、いずれの場合でも探られないよう
細心の注意を払っている。それだけ重要なことを調べているのだ。

「ホンットになんにも探れてないんだな。なにしてたんだよ、まったく」

腕組みをしてヤグチはあきれ返るように言った。
掴みかかろうとするカオリを、アヤが制した。

「とにかく、ここは一旦身を隠してアイツらが出てくるのを待とう。
 どこをアジトにしているのか、それぐらいは知っとかないと」

「えー! それ明日にしようよ。カオリお腹空いちゃてガマンできないよ」

「うーん、でもなぁ」

アヤは頭をかきむしった。空腹は彼女も同じだが、無為に時間を過ごしたくない。
大聖堂にたどり着くだけで、丸一日掛かっているのだ。
どうしようかと悩むアヤの袖を、ヤグチが引いた。

「アイツらの住んでるトコなら、オイラ知ってるよ」

「はぁ? なんで」ふたりは驚きの声を上げた。

「これ」とヤグチは自分の足元を指した。地面に、棒切れかなにかで描いた図形があった。
彼女らの住む屋敷の地図なのだという。
それを不思議そうに見つめるふたりに、ヤグチはマキが描いたのだと説明した。

「今度さ、ぜひ遊びに来て欲しいって」

175 :ねぇ、名乗って:2007/02/18(日) 20:09:06 ID:arDDyjK20
めっちゃ面白くなってきたやん

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